1923年1月、京文社から刊行された室生犀星の短編小説集。著者自装。
それ全體が珠玉(たま)でないかぎり別に大したものではなからう、――しかしところどころ珠玉のやうなもの、或ひはそれに似たやうなものがないとも限らない。何故だといへば時に非常に拙いものであつても私は私の癖としてその物語りの幾頁かに、自分でも好きなところを剜(えぐ)るくせがあるからである。若し氣まぐれでなく能く讀んでくれる人があつたら、私の言ふところのものの香をかぎ當てるに違ひないからである。
詩のやうな文章といふものは、よく私に當てはまる評的であるさうだが、私のほんたうの心は、詩のやうな文章をかこうとしてはゐなくて、いつか知らず詩をかいてゐるやうなところにあるのだらう。――實際、私自身は詩といふものも小説といふものも、今までに成人してくれば却つてさつぱり分らないとも言へるのだ、――ぎりぎりに考へるとちやんと分つてあるやうな氣もするのだが……
(「萬花鏡小言/室生犀星」より)
目次
- 植物物語
- 童子
- 面
- 人魚使ひ
- 夏女
- 母を招ぶ
- 緑色の文字
- 笛を合す人
- 涅槃會
- ノアの兄弟
- 佛顯記
- 粟
・童話三種
- 龍の笛
- 獵師
- お菊の縫物
・魚眠洞雜筆
- 河鹿
- 湯ヶ原
- 碓氷峠
- 輕井澤
- 魚
- 剪燈記
- 殘雪餘映
- 白秋山房訪問記