1932年7月、映畫知識社から刊行された北村小松のシナリオ集。
私がシナリオを書き出してから、とにかく十二年になる。考へて見ると、かなり長い間シナリオ道を歩いて來たものだ。
が、その割に數が少い。それは、私が研究生として屬してるた故小山內薫先生の松竹キネマ研究所が解散してから私が學校を出て正式に松竹キネマの蒲田撮影所にはいるまでの三年と、兵隊の一年との間、あまりシナリオを書かずに芝居の方を勉強して戯曲を書いてるたせいもある。私の最初の公認シナリオは村田實氏や森岩雄氏と一所に東京日日新聞の懸賞に應募して常選した「民雄さん」と云ふやつだ、がこれはコッピーもないし撮影されなかつたので、のせたいのにのせられない。
それでまづ最初に撮影された「山暮る」(これは松竹キネマ研究所作品で、牛原氏の第一回監督作品である)から最近までのやつを(それも全部ではなく「山暮る」は私の出發記念のために)この集に集めただけである。
大部分は會杜の御用シナリオである。私はこれらのシナリオが私のすべてで、そしてこれで満足だと思つてゐるのではない。私は、まだまだ書かなければならないものをもつてゐるのだと、かう云ひたい。(「序」より)
目次
序
- 山暮るる
- 久造老人
- 彼と東京
- 彼と田園
- 彼と人生
- 戀愛第一課
- 母よ君の名を汚す勿れ
- (小型映畫用シナリオ)
- 双眼鏡
- 望遠鏡
- 海
- 理由
- 暗殺
跋 牛原虚彦