1982年7月、酣燈社から刊行された現代詩の「自作自註」アンソロジー。初出は高田敏子(1914~1989)主宰「野火」。編集協力は凱風社。写真は鈴木龍一郎(1942~)、イラストは渡まゆ、装幀は高橋京子。
はじめに、自分のことを書くのは、ためらわれるのですが、ここにまとめられた、詩人方の「自作自註」についてをのべることは、やはり、私のことからになってしまいます。私が詩に触れはじめたのは、十代半ばを過ぎたころからで、私にとって、詩人とは不思議な、普通の人とは違う、別世界の人のように思われました。
その思いは長くつづいて、三十代のはじめ(昭和二十二年ごろ)、詩人にお会いする機会を持つようになったとき、その方々が、普通とは変らない生活者でいられることに、また不思議を持ちました。
詩人の心は作品の中に。それで十分ではあっても、普段は隠されている詩人そのものに、詩を生み出す心のあり方に、私は近づきたい願いを持ちました。
その願いを長く持ちつづけて、昭和四十一年一月創刊の「野火」誌に「自作自註」としての玉稿をいただき、連載をして来ました。
『わが詩わが心』は、詩人の皆様が、私の願いに答えて下さったことから生まれました。
生活の中に込められた詩人の目、詩の心は、詩に親しまれる方ばかりでなく、どなたの胸も打つことでしょう。詩の心の根本は、生そのものへの愛であり、謙虚に、誠実に、真実に、生に向かい合う心であることを、私は学ばせていただいて来ました。
生への愛こそ、地球の平和につながるものです。無気味な危機感を持ついま、一層に、愛の目をとどかせる大切さが思われます。
(「はじめに/高田敏子」より)
目次
- 秋 尾崎喜八
- Adagio 新川和江
- いまふりかかり 坂本明子
- 重い火 辻井喬
- 女湯 石垣りん
- 折れた葦 森田勝壽
- かっぱ 阪田寛夫
- 紙風船・海 黒田三郎
- 稀薄な部屋 北園克衛
- 樹に寄せて 西垣脩
- 熊彫 八森虎太郎
- 故郷 伊藤信吉
- コル 鳥見迅彦
- 五十の夜 犬塚堯
- 暦のうた 芥川瑠璃子
- ちがった意味 長島三芳
- 掌の中の卵 壺井繁治
- 天の耳 丸山薫
- 土民の手 小野十三郎
- 鳥 川崎洋一
- 二月の花 宗左近
- 合歓の花歌 野田宇太郎
- 白鳥 丸山豊
- 葉・木の葉 笹沢美明
- 日付のない日記 中村千尾
- フランシス・ジャム先生 吉野弘
- 二つの世代 岡本潤
- 風景 黒木清次
- ハーケンの歌 秋谷豊
- 北方へ帰る山嶋・富士ビューホテルにて 田中冬二
- ポボフの機関車 緒方昇
- 真昼の乙女たち 中村真一郎
- 水辺・エデンの妻 嵯峨信之
- み ち (紘子に) 三井ふたばこ
- 見る 滝口雅子
- 村の地蔵さん 戸田正敏
- 村の春 堀内幸枝
- 夜のうた 深尾須磨子
- 流星 井上靖
- ロック・ クライミングの唄 若い山の友へ 山本太郎若葉よ来年は海へゆこう 金子光晴
- 私はその人を征服したのだろうか 永瀬清子
- わかれ 山下千江
- 忘れた秋 五の歌―母秋子に 岸田衿子
- 虫の音 高田敏子