1980年2月、七月堂から刊行された谷口利男の遺稿集。編集は一色真理、河野良記、十村耿、安田有。附録栞は「憧れることのない夜のために」(安田有)。
谷口が死んで、遺稿集を出そうという声は、ぼくたちの間でごく自然におこった。それは谷口との個々のかかわりあいがどのようなものであれ、彼の死が、ぼくたちの青春とその後の生きざまを、いま一度問い返すことを烈しく強いてきたからである。たしかに彼の死は、ぼくたちを、ある時代と青春を生きた醒めやらぬ記憶へとうながすが、ぼくたちの側からは、彼の八年間の沈黙――詩の不在の先にあるものを何ひとつ見通すことができなかったのである。生前ついに一冊の詩集も持つことのなかった谷口の、表現の全貌と生を、今、一冊の書物にまとめておきたい。
ただ、本書が谷口利男の生と詩にどこまでせまりえたかとなると、編者として十二分に意を尽くせなかったことが心残りである。ここに提示された谷口の表現や生の事実は、彼の生の真実の氷山の一角でしかないのかもしれない。けっして表現にのせられることのないまま日々のくらしのなかに消えていった彼独自の格闘――谷口を崩壊へと追いやったその特異な人柄と生きざまの過程が、ふと視えてくるようであると同時に、何も視えなくなっていくようでもある。そうである限り、時代や社会が強いてくる困難を、ぼくたちはまだまだ手離すわけにはいかない。なにはともあれ、こうして一冊の本となった以上、ひとまずはぼくたちの手を離れる。
(「編集を終えて/一色真理 河野良記 十村歌 安田有」より)
目次
・詩篇
- 攻防1
- 攻防2
- 攻防3
- 攻防4
- 攻防5
- 攻防6
- 攻防7
- 何処にいるの きみは?
- 目覚めのとき
- 魂の平和
- 〈幻視の街〉にて
- 幼年時代
- 深き渕より
- SOUVENIR
- 崩壊し生まれはじめる映像
- 厳しい眠り
- 断片一
- 断片二
- 暗い時間
- われらじっとりつかまるもの
- 党派性の意志
- モノローグ
- 瀕死の街
- 憧れることのない夜のために
- 鳥たちはまだ黙っている
- たまらない明日
- 月の明るかった夜に
- あの日によせて
- ある姿によせて
- 忘れた日には
・エッセイ
書簡
谷口利男年譜
編集を終えて