小島に生きる 長島愛生園編

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 1952年7月、宝文館から刊行されたハンセン病文学アンソロジー

 

 ハンゼン氏病菌(癩菌)は、人類の発生と同時に、世界に存在したようである。人体の皮膚粘膜、末梢神経に好んで寄生して、人間を苦しめて来たものであり、人の面皮を破り、手足の自由を奪い、ついに、患者をして、憂愁悲惨のどん底にまでつき陥そうとする、まことに憎むべき病菌である。
 ことに、この病気の発病年齢が、小学校より高校、大学に至る間に多く、一種の青春病であるため、思者諸君の悲痛憂悶は、共に悲しみ共に泣くもなお足るものではない。
 たださいわいなのは、この病菌が決して、人間の叡智の中順を侵すことがないことである。これは、患者諸君にとっても、せめてもの慰めであろうか。
 癩者の中には、古来、有名な学者、知勇の士の名を発見することもできる。療養所が始まってからでもこの四十余年の間には、北条民雄、明石海人、島田尺草の如き傑れた文学者を生んでいる。
 現在、全国十ヵ所の国立療養所には一万人の癩者を収容することができるが、各所とも、月刊の療養雑誌を持って居り、創作を始め、詩歌等、多くの作品をのせている。これらは、病者みずからの慰めとなるばかりでなく、互いに同感を鼓舞激励せんとの意気に燃えるものである。
 その表現は、あるいは稚く拙いかも知れない。しかし、彼らの作品の一字一句、すべては病苦と戦いつつ作られたものであり、読むほどに誦するほどに、われわれの胸に感動をたたきとまずにはおかない。勿論、収載された作品の書かれた時期と今日では、治療対策、病舎不足などに、一段の改善はほどこされている。ひとえにめぐみ深き貞明皇后さまをはじめ、予期以上の同情を以て多くの救癩資金を贈られた八千方同胞各位のおかげである。
 いま、義侠ある宝文館は、利益を無視して、「小島に生きる」一巻を世に送ってくれた。まず、わが愛生園の入園思者の作品を読んでいただくことによって、一人でも多くの人々に、彼らの悲しみ苦しみを知り、この病気を理解していただくことは、私の心からの祈りでもある。
(「序/国立療養所長島愛生園長 光田健輔)より)

 
目次

序 光田健輔

  • 夢と現實 創作篇
  •  鏡 豊田一夫
  •  夜の潮 大海誠
  •  墓参 宮島俊夫
  •  虚像 阿部肇
  •  連絡船 中園裕
  •  四國路 甲斐八郎
  •  プロミンの注射場 光崎田文
  •  女二人 双見美智子
  •  螢光 森春樹
  • 小島の四季 随想篇
  •  長島八景 千葉修
  •  長島漫筆 松江薙艸
  •  猫の眼 宮島俊夫
  •  道化 中園裕
  •  泣虫小僧 田井吟二郎
  •  聲 他一篇 和公梵字
  •  同収容の人 蓮井正信
  •  友情 佐治昇人
  •  モデル病室 宇城茂
  •  赤面の記 友野信一郎
  • 心象風景 詩篇
  •  綠に蘇る島 他五篇 瀬戸美佐夫
  •  楠 小島浩二
  •  ライ眼 森春樹
  •  秋風よ 河田正志
  •  水たまり 志樹逸馬
  •  手袋 堺登志朗
  •  光を浴びて 豊田志津雄
  •  遠い日 森中正光
  •  結核病棟の友よ 津山一正
  •  魚 水島和彌
  •  懐かしい便 今井正
  •  長島の秋より 中本一夫
  •  風鈴 島村靜雨
  •  雪の朝 小林義夫
  • 愛生集 短歌篇
  •  依田照彦
  •  壹岐耕
  •  深田洌
  •  千葉修
  •  松島朝子
  •  洲間新吾
  •  田井吟二郎
  •  甲斐又一
  •  辻瀬則世
  •  牧野美保
  •  津川洌
  •  則武
  •  有村露子
  •  鏡太郎
  •  野村徳二
  •  二宮重子
  •  飯田政夫
  •  杉野智代
  •  松島志津夫
  •  舟橋しのぶ
  • さざなみ集 俳句篇
  •  山本肇
  •  堀川東月
  •  高杉美智子
  •  小阪さつき
  •  川上時雨
  •  玉木愛子
  •  和公梵字
  •  水上修
  •  中代英雄
  •  片山爽水
  •  林格子
  •  邑永移山
  •  須竝一衛
  •  山田みつ女
  •  森田多加子
  •  内藤綠春
  •  西田明水
  •  奥如水
  •  坂上藤江
  •  高丘極至
  •  藤井聞子
  •  牧紫水
  •  中代時枝
  •  谷口あきら
  •  渡邊靜喜
  •  山口初穂
  •  野口虹児
  •  神生千草
  •  中江灯子
  •  生越光波
  •  柴田暁生
  •  出海帆船
  •  保澤ただし
  •  葉山勘太郎
  •  笹内定樹
  •  今西康子
  •  浅川月歩
  •  林すみれ
  •  丘田稔
  •  高柳貞次郎

編集後記

 

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