1973年、北洋社から発行された石垣りん(1920~2004)の第一散文集。
私のわずかな散文の、どれが、いつ北洋社の櫛野義明さんにめぐり逢ったのでしょう。
こんど一冊の本にして下さるというので、はじめて名刺をかわし、打ち合わせをかさねるたび
「アルナラ、ダセヨ」
「ヤダヨ」
私は互いの会話を、餓鬼大将と餓鬼娘のそれにこっそり置き換えてみては、ひとり笑い出すこともありました。
櫛野さんはガキ代償どころか、私よりずっと年若い好青年です。
とても使えないと思います。などと言いながら、古いものをおずおず差し出すうれしさは複雑でした。
これが世間の目に堪えるでしょうか。いまはただ案じられるばかりです。
(「あとがき」より)