1961年、思潮社から刊行された、荒地同人高野喜久雄(1927~2006)第2詩集。解説は鮎川信夫(1920~1986)。
ゆくりなくも一つの言葉がうかぶ。
詩は存在の追憶である。
大切なのは、詩と存在と追憶が、一つの脈絡の中にあることである。「存在は追憶の詩である」でも「追憶は詩の存在である」でもよい。それら三つのものが、一つの脈絡の中にありさえすれば……
高野喜久雄の詩の世界ができ上るのである。
それはきわめて透明な世界であつて、曖昧なものは存在しない。慰戯的なものも、雑談的なものも存在しない。
それだけに、語りにくい、説明しにくい詩である。語ることも、説明することも必要でない詩と言つたほうがいいかもしれない。黙つて読み、黙つて共感するだけで、充分なのである。(鮎川信夫「解説」より)