1993年1月、思潮社から発行された千葉香織の第一詩集。第八回現代詩ラ・メール新人賞受賞。
わたしがいる。
ということに違和感に近い驚きを感じることがある。
自分が、ヒトという生き物で、言葉で考えたり書いたり、それ以前に食べたり息をしたりたくさんの細胞がバラバラにならずにまとまって、ひとつのなにか(=わたし)であるのは不思議としか感じようがない。しかも三十年以上も、その働きは続いている。
どんな偶然、どんな確率の中でこの宇宙が銀河が太陽が地球という惑星が生まれ、蛋白質ができるのか。そこから連なる長い長い時間と作用の果てにいる、わたし。
そのようなつかみどころのない感覚に襲われて、途方に暮れてしまう瞬間があるのだ。こわい。
人間の作った、たくさんのものたちに囲まれていながら一人ではそれらを作り出すことはできない。自然や人間の営みの上に、乗っかっているだけ。どうやって詩(らしいもの)を書いているのかだって、わからない。言葉や感覚は、やって来るもののようだ。ただ受け止めよう。(「あとがき」より)
目次
Ⅰ 水族
- かつて渚を歩いたひとへ
- 記憶
- 貝の果て
- 卵生
- 伝言
- 渚の時間
- 逆光
- 夜の魚
Ⅱ 産月
- 理想気体についての質問
- 創傷
- 恋唄
- 蒼穹
- 幸福な水族館
- 臨月
- 希い
Ⅲ 樹の子供
- 発芽
- 通過
- 金木犀
- 昼と夜
- 夜の樹
- 花の宴
- 鬼子