失くした季節 金時鐘詩集

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2010年2月、藤原書店から刊行された金時鐘(1929~)の第9詩集。第41回高見順賞受賞。

 

 気はずかしくて止めたが、思いとしては「金時鐘抒情詩集」と銘打ちたかった詩集である。日本では特にそうだが、抒情詩といわれるものの多くは自然賛美を基調にしてうたわれてきた。いわば「自然」は、自己の心情が投影されたものなのだ。「抒情」という詩の律動(リズム)もそこで流露する情感を指していわれるのが普通で、抒情と情感の間にはいささかのへだたりもない。情感イコール抒情なのである。
 この詩集も春夏秋冬の四時(しじ)を題材にしているので、当然「自然」が主題を成しているようなものではあるが、少なくとも自然に心情の機微を託すような純情な私はとうにそこからおさらばしている。つもりの私である。植民地少年の私を熱烈な皇国少年に作り上げたかつての日本語と、その日本語が醸していた韻律の抒情とは生あるかぎり向き合わねばならない、私の意識の業のようなものである。日本的叙情感からよく私は脱しえたか、どうか。意見の一つもいただければ幸いです。
 収録作品三十二篇のうちの十五篇は、学芸総合誌・季刊『環』(藤原書店)に連載したものである。巻頭詩の場をいただいたおかげで、久方ぶりの詩集が編めた。(「あとがき」より)

 

 

目次

 夏

  • 雨の奥で
  • 蒼いテロリスト
  • 待つまでもない八月だと言いながら
  • 失くした季節

  • 蒼い空の芯で
  • 鳥語の秋
  • 伝説異聞
  • かすかな伝言
  • 二個のとうもろこし
  • 錆びる風景
  • 夏のあと

  • こんなにも離れてしまって
  • 一枚の葉
  • 跳ぶ
  • 冬の塒
  • 空隙
  • あじさいの芽
  • 人は散り、つもる
  • 影は伸びて

  • この無明の刻を
  • 帰郷
  • 吹かれて遠く
  • 木蓮
  • つながる
  • 何時か誰かまた
  • 四月よ、遠い日よ。
  • 春に来なくなったものたち

書評等

弯曲していく日常

 

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