1977年10月、花神社から刊行された粒来哲蔵(1928~)の第4詩集。第8回高見順賞受賞。
春と夏の、僅かばかりの日数の島暮らしも、十年以上もの年月がたってみると、私をまごうかたない島人に仕上げてくれた。竿を担いで、山小屋というか海小屋というかちょっと名付け用のない小屋を出ると、島をサイクリングする都会の若者たちにたちまちつかまってしまう。カレラハ私に道をたずね、カメラを向ける。庄内笠にジンベエという出で立ちにも因るのだろうが、もう顔のなりが島人のそれに近づいているのだ。
下根崎から釣糸を垂れると、うねりが一気に糸をくわえこみ、また吐き出してくれる。竿の先がそのたびに上下するのだが、それは海に対する絶え間ない虞れと畏みをあらわす辞儀のようにも思われる、と同時に、釣糸と竿と私の一体化した存在は、海と引き合い、海の受容と拒否に呼応することで、直かにその性を感じとる。その巨きな性のたかまりが波しぶきとなって私を襲うと、私の存在は釣糸ごと震えるが、釣座を動くわけではない。水滴のついた眼鏡ごしに私は竿頭を見る。竿頭のむこうに、鳶の舞う空が在る。
この詩集の、島に関する作品は、私が島を離れてから書かれた。原形はこの島だが、勿論作品の島は、私の内と外のはざまにある。(「あとがき」より)
目次
望楼
- 望楼
- 函
- 罠
- 樽
- 虜
島幻記
- 島・fragments
- 島における二十七章
- 島幻記
- 島におけるcomposition
夜明けと変容
- 夜明けと変容
- 商賣伝説
- 伝説
- 雪
- 雪のある四章
loop drive
- 匕首
- 倉浜幻想
- loop drive