1977年10月、彌生書房から刊行された山本沖子の第一詩集『花の木の椅子』(創元社、1947)の復刻版。
『花の木の椅子』に載せられた詩は、あぶり出しのように、白紙の上に、とつぜん、にじみ、あらわれ出たのではありません。
私は病気のために旧制専門学校を中退し、それから、ひとりで、いろいろの本を読んで勉強し、詩を書くようになったのです。それは太平洋戦争が終結する、ほぼ一年くらい前のことでした。紙が欠乏していたので、書き損じの部分を切りすてて、余白の部分をのりではりあわせた原稿用紙に詩を書き、そのころ福井県三国に疎開しておられた三好達治先生に、やはりつぎはぎの便箋に書いた手紙といっしょに初めてお送りしたのでした。
インクすらも、まるで水のようで、文字はうすい鉄色にしか書けませんでした。
ただちに、三好達治先生からはげましのお葉書をいただいたときのおどろきを、私はいまも忘れることができません。
それからつぎつぎに詩を書き送り、実にそれらの詩のすべてに、つねにはげましのお言葉をちょうだいしたのでした。
『花の木の椅子』前半の詩はそのような情況のもとに書きました。
後半の詩は先生のお宅で、お留守番やお手つだいをしながら書いたので、すべて先生がお目をおとおし下さり、言葉づかいやものの考え方について、きびしいご注意をいただいたのです。
おびただしいご蔵書のなかから、私に多くの本を下さり、なかでも強くすいせんされたのが金田一京助著『石川啄木』と日夏耿之介著『詩壇の散歩』でありました。
「尊き拙」ということを教えていただいたのも、そのころでした。
そして、昭和二十二年三月、詩集は大阪創元社より部数三千で出版されたのでした。今考えると奇跡としか思われない、それらのことはすべて、先生お一人のお力によってなされたことでありました。詩集の題も先生がおつけくださったのです。
(「後記」より)
目次
序文 三好達治
花の木の椅子
- 月
- 秀ちゃん
- 先生
- 不思議な夕方
- 青い海
- 南風の日
- 昼
- 梅の花
- 椿
- 静かな一年
- びっこ
- 神様の思い出
- 白椿
- 初夏
- かえれない
- 駅へ行く道
- ある手紙
- 夢
- 苦しい
- りぼん
- れんがの家
- 冬の思い出
- 汽車のなかで
- 私のセーター
- 山路をのぼる夢
- 病んでいたころ
- 夕ぐれの野辺送り
- 郷愁の風景
- 仔猫のいる家
- おわび
- 花の木の椅子
- 停車場
- おともだちの髪
- 青い鳥
- 秋
- 小さい街
- 船着場
- 破れた絵本
- 手紙
- 氷のかけら
- 夜明け
- 夕陽
- 早春
- おしえて下さい
- ボートの家
- 夏よさようなら
- 夜咲く梅
- 御本のなかの少女
- 海の夜明け
- 夜更けに電車は走りました
- 私は胡桃を食べました
- ツルさんの眼
- 村の陸橋
花の木の椅子 以後
- おかあさんが死んだあとで
- 晴子の骨壷
- 月夜
- 涙
- 療養所
- すでに年老いた人
- 散歩
- うまれてからたったひと月
解説 杉山平一