1978年5月、永田書房から刊行された高柳重信(1923~1983)の第2評論集。
いわゆる新興俳句運動が壊滅してから、すでに四十年近い歳月が経過しようとしている。昭和十六年に上梓された富沢赤黄男の処女句集『天の狼』が、新興俳句運動の最後の打ち揚げ花火として、その埋葬者たちを驚かせていたとき、それを感激しながら仰ぎ見た僕は、まだ十八歳の少年であった。それ以来、新興俳句運動を、わが俳句的故郷として久しく思いつづけて来た僕も、その過ぎてゆく光陰の素早さに、あらためて一驚せざるを得ない。
それにしても、近代の俳句史の中で、この新興俳句運動ほど不幸な運命を担ったものは、他に例を見ないようである。きわめて困難な状況にもめげず、俳句形式にとって重要な多くの問題提起を次々と行ないながら、それが治安維持法違反という汚名を被せられて弾圧されてしまうと、時の俳壇は一斉に特高警察の説くところに追随しようとし、しかもその態度は戦後になっても一向に変更されなかった。そればかりでなく、明らかに新興俳句運動が開拓し、俳句形式のために新しくもたらしたものさえ、みな後続の俳人たちの功に帰してしまったのである。(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 俳句形式における前衛と正統
- 新興俳句運動概観
- 新興俳句運動の軌跡
Ⅱ
- 富沢赤黄男ノート
- 三橋鷹女覚書
Ⅲ
- 昭和前期の富沢赤黄男
- 富沢赤黄男の日記から
- 富沢赤黄男の場合
- 「流木」の一句について
- 富沢赤黄男の「魚の骨」
- 高屋窓秋の『白い夏野』
- 西東三鬼の『旗』
- 日野草城とエロチシズム
- 妖説・永田耕衣
- 渡辺白泉と石田波郷
- 西東三鬼と平畑静塔
- 西東三鬼と富沢赤黄男
- 相似と相違
Ⅳ
- 現代俳句鑑賞Ⅰ
- 現代俳句鑑賞Ⅱ
あとがき