1989年5月、七月堂から刊行された中川千春(1961~)の詩集。
〈飛行船の消滅する綺譚がある〉。この書物はこのように始まってゆく。全篇これ綺譚といってぃぃかもしれない。なげやりな綺譚、荒唐無稽な綺譚、アナクロニックな綺譚。しかし、このなげやりも、荒唐無稽も、アナクロニズムも壮大で爽やかなものだ。言葉によってつくられた言葉の綺譚なのだが、言葉にべっとりと依存しているわけではないからかもしれない。なにせ、ここにある綺譚の源泉は〈言語放擲戦争〉なのだから。
レコンキスタ、失地を奪回するために、まず放擲すること。ここに刻まれてある言葉はどこにも流れててない。裁断され、組み換えられ、逸脱される言葉たちは、流通とはほど遠く、採集されたオブジェとして定着される。中川千春の言語放擲図鑑のなかに。たとえば「五穀豊穣腹筋体操」を読んで哄笑したあと、おもわずドキリとしてしまうのは、レコンキスタをとりおこなうその生生しく鮮明な手つきにふれるからにちがいない。(付録栞「言語放擲図鑑のために/朝吹亮二」より)
目次
- 秋の断片
- 嬢の脱出
- 蛞蝓氏の崩御
- Newromantic
- 食卓にいるときも私を誘う自殺の妣(おもい)は独身の女が編んだ膝掛けや 兄が修繕したストオヴの様に優しい
- 棲息
- 僕は戦場カメラマンに憧れる
- 部屋
- 月の光
- 青いボアン
- 新しい観客の為のエスキス
- 風に就いての考察、海に対する兵法
- 蜻炎(かげろひ)
- 北京
- 青空
- タイで記すシベリアの森林
- 山陰
- 長江酔詩
- 始皇帝陵
- 水晶
- 紀行断片
- Somethin'else
- 上海
- 夏の薫り
- 客観的世界像は知覚の相違に現れえないような相違はけっして許さないだろうか或いはまたひとつ 右と左の対照は、それがどれほど多くの神話的思索を占めようとも、科学思想に過去と未来の対照ほど基礎的な問題を持ち出さない世界像であり、すべての自然法則は右と左の交換に関して不安であることには疑いはありえない、であろう
- か、それとも
- 人類と岬
- 雨季の事務器が打電する
- 仮題もなし
- 五穀豊穣腹筋体操
- 東京ブギヴギ
- 言語による言語放擲戦争(レコンキスタ)
- 浜辺に枝
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