2015年9月、思潮社から刊行された高木敏次(1968~)の第2詩集(長篇詩)。装幀は夫馬孝。
前作でかなえられなかったことを今作でどれほどかなえられたであろう。願いは始めること、終えることを書き上げることであった。それはまた始められなかったこと、終えられなかったことを見つめることでもあった。始められない一行、そして、終えられない一行、それがどこにあるのか見渡すことによって、それらの影を映しこんでゆくことで生まれた数百行であった。
それらの影はどこに現れたのだろう。私にとって世界とはひとりではなく、ふたりでいる場所。私とは関係に過ぎない。自己は他者によって成り立ち、他者は自己を作り上げる。したがって私とは、ここにいない私、見たこともない私へとせまる影にすぎない。私とは、ここにいない私とのへだたりなのだ。
終行へ向かい、そのへだたれたもの、一層へだてられたものへ駆り立たせたもの。そして歩みおえた終行から数百行を見渡すとその何かが消えてしまったのだと覚悟した。書くことによって何かが隠された。それは結果まるで隠すことによって逆に剥き出しにするとでもいうべきからくりがあるのだといわんばかりに。
始めること、終えることとは見失うことでもあったのだ。かなえられたことに呆然としている私が今ここにいる。
(「あとがき」より)