2009年9月、港の人から刊行された青木幹枝の第3詩集。
幼い頃から私は、ここで起こっている現実ではない、別の世界を感じていました。その世界は時々現実より饒舌でした。楽しくもあったのですが、自分がどこにいるのかままならず、おかしな女のコに見えたでしょう。名付けようもない何かを、自分だけしか感じられないかすかな震えを、言葉を使ってこちら側に炙り出すことができないかと試みました。書くことで、私は狂わずに済んだのです。
第一詩集は『家』でした。家はいくらでも書かせてくれましたが、私はその迸るほどの何かを受け止める言葉を用意できませんでした。それどころか恐ろしくなって追い返してしまったのです。パンドラの筺は開けなかったことにしないと、自分が危ないと感じました。私の中の名付けようもない何かはこれではない、テーマは別にあると自分に思い込ませ、『家』はこれで完結させ封印しました。あれから二十数年、私は怖くて怖くて逃げ回っていました。でもどんなに逃げてもいつも同じ場所にもどってきてしまう。そしてとうとう両足首をひっつかまれて、引き摺りこまれてしまったのです。
(「あとがき」より)
目次
- かめという女の記憶
- 斎場(にわ)
- 鬼遣らい
- 八手の間
- 竹矢来
- 跛行(はこう)
- 三尸虫(さんしちゅう)
- 嚏(くしゃみ)
- 獣道
- かめ女Ⅰ
- 下墅國都賀郡大川嶋村(しもつけのくにつがぐんおおかわしまむら)
- かめ女Ⅱ
- 植物に関する思考1
- 植物に関する思考2
- 植物に関する思考3
- ササミキ
- 足尾にて
- 鎮魂祭