2006年9月、思潮社から刊行された野木京子(1957~)の第3詩集。造本は稲川方人(1949~)。第57回H氏賞受賞作。
失ってしまったなにかを呼び戻すために詩を書いているのだと思っていたが、ほんとうは、失うために書いているのではないだろうか。じょうずに失うということが苦手で、いびつなものを次々にこぼれ落としてしまう。見えない鳥が飛び去るように、きれいに離れてくれればいいのに。
私の周囲にばらばらに散らばったたくさんの詩篇を、茫然と見渡す日々が続いていた。いくつかが拾いあげられ、あるものは切断され、必要な臓器が取り出されるように、必要な行が抜き出され、縫い合わされて一冊になった。私ではない手が、おりてきてくれた。
ヒムルは、イディッシュ語でheaven, skyを意味する。
(「あとがきにかえて」より)
目次
- 星の表側/斜面の下
- 三粒
- それだけは空からゆるされていたから
- 明滅するもの、信号、水空の
- 殼/抜け殼、は振動する微粒子、通路の宝物
- 箱の音
- 輪 circle
- 光とすれ違った
- 鞦韆(ぶらんこ)
- 追尾
- 雨
- (声を発しないものを愛する習性が私にはあって
- 石によろこびがふりますように
- ここにいて/どこへ
- 空の頬、骨のねむり
- 日暮れ、里(サト)――y/墓地
- 数え歌の場所
- 無声の、叫びのなかの
- 水滴のように
- 植物と、乗り物
- ――二月、中央線武蔵境駅下車、病院へ行く。
- ミサキ
- ふたつの場所
- 風、その声に伝えよ
- いたいの? いたいの?
- 縁側
- 水焼(すいしょう)の木
- 振動、音粒の空
- わたしの野火
- 見えない文字
- 虫の殼
- *
- 天体
あとがきにかえて