1986年11月、花神社から刊行された黒岩隆(1945~)の詩集。装幀は林立人。
「森へ」と題された、ムンクの木版画が気に入って、その絵葉書を額に入れて、階段の登り口に飾った。「何処へゆくの」「森へ」といった具合だ。その絵は、ほぼ画面いっぱいの茶色い森の中へ、赤い髪の白い女と、その背に腕をまわした、ただ黒いだけの人物が、寄り添って入ってゆこうとする場面だ。二人共、こちらに背を向けて、ただ奥へ奥へと入ってゆく。不安そうに振り返ったりしない。女は、もう腰のあたりまで、黄色い地面に溶けてしまっている。恋人のようにみえる人物も、女の影、それとも深い欲望かもしれない。
なんだか暗い絵だが、飾る気になったのは、絵が全てむこうを向いているからだ。見る私は、いつも森の外にいられる。そして激しく、森へ入ることを夢みていられる。(「あとがき」より)
目次
あとがき