1962年9月、思潮社から刊行された片瀬博子(1930~)の第2詩集。
「この眠りの果実を」出版後、三、四年間の仕事をまとめてみた。その主なものは二十代の終りの作品である。題は旧約聖書エレミヤ哀歌の中の一節”女よ おまえの破れは 海のように大きい”からとった。
この時期はわたしにとって大へん重要な思い出ふかいときであった。どこをむいても暗いこの時代、がんじがらめにわたし達を囚えてはなさないこの全ての関係、生きていることが傷つけあうことである現実の、この錯雑した罪の絆の結び目を、時間のどの隠れた遠さにおいて見出すのか、もし自由があるとしたならそれはどんなものであり、何に於てなのかという事を考えたのであった。わたし自身の個人的な体験、ごく内面的な世界のできごととその意味はおそらく詩に於てのみ伝達し得ることと思うのでここでは触れないが、 今わたしはそれらを通じて生れたこのささやかな仕事の後、おぼろげながら秩序への予感 を抱いている。
それは一切の否定的要素、失意、挫折、徒労も全ては、究極の肯定への回路であるという方向感覚である。そしてそれは同時に、互いに憎み呪いあい、しかもどんなにか愛され理解され語りたいことを無限に抱えながら、むきあっている孤独なわたし達――この全ての関係において喜ぶ生への希望なくして、孤立したどんな救いもないという共在の自覚である。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
Ⅱ
- 婚姻
- 抱擁
- 抱擁
- 抱擁
- 悲歌
- Love Affairs
- 鉄の環
- もっと小さな隠れ家を
- 覚醒まで
- ベラフォンテ――”わたしの試練”をうたえる
- 旅人
あとがき