現代詩100周年 TOLTA編

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 2015年10月、TOLTAから刊行された現代詩アンソロジー。企画・制作はTOLTA(河野聡子、山田亮太、佐次田哲、関口文子)。装幀は河野聡子

 

 本書は『現代詩一〇〇周年』と題した、現在日本で活動している詩人による日本語の詩を収録した、アンソロジー詩集です。本書を企画したTOLTAは、ヴァーバル・アート・ユニットと称し、言葉を焦点にして様々な表現に関わる活動をしています。
 私たちTOLTAは、今年二〇一五年を、現在書かれているような日本の無定形・口語の自由詩の成立から百年目であると宣言します。

 百年前の一九一五年、日本の「詩」にとって、ふたつの画期的な出来事がありました。それは詩人・山村暮鳥の詩集『聖三稜玻璃』が刊行されたこと、もうひとつは、そのころ萩原朔太郎室生犀星山村暮鳥の三人が、「人魚詩社」というグループをつくり、活発に同人活動を行っていたことです。

 現在もなお大きな影響を与えている詩人、萩原朔太郎の最初の詩集『月に吠える』が刊行されたのは一九一七年です。『月に吠える』はすぐに大反響を呼び、萩原朔太郎は詩壇の一大スターとなりました。一方、その二年前に刊行された山村暮鳥の『聖三稜玻璃』は、当時の詩壇の多くの人から、無理解と拒否をもって迎えられました。にもかかわらず、私たちはこの詩集を、日本の「現在」の無定形・自由詩につながる最初の一歩であり、同時に完成形であると考えます。

 山村暮鳥の詩集『聖三稜玻璃』は(テキストだけならインターネットの「青空文庫」で無償で読むことができます)たいへん奇妙な作品です。この詩集に収録された詩は、百年前に出版されたということがおよそ考えにくいほど、現代的な特徴を維持しています。『聖三稜玻璃』という詩集は、当時も現在も難解だと言われてきました。なぜならこの詩集に収録された詩には、読者が詩を読解する前提となる手がかりが与えられていないからです。当時の読者はこの詩集の作品に接して、あっけにとられました――現在の日本で「詩」を読んだことのない人が「詩」を目撃した時にあっけにとられるように。
『聖三稜玻璃』の詩は、読者に対し、友好的にその「意味」を投げかけたり、説明したりしません。読み手は詩を読みながら、能動的に何らかの意味を自分のなかでつくりあげなければなりません。当時『聖三稜玻璃』の詩に対し、読み手として明確に「意味」を構成してみせたのは、たとえば萩原朔太郎でした。彼が「人魚詩社」で暮鳥と活動をともにしていたのは、もちろん偶然ではないでしょう。
 そして、暮鳥がこの詩集で行った様々な試み――技法のみならず、詩において思想を表現するこころみの上でも――を、現代詩は多かれ少なかれ、洗練したり揺り戻したりしながら、くりかえしてきました。
(「はじめに」より)

 

目次

はじめに

  • 野木京子 哄笑を杖にする
  • 瀬尾育生 褐色
  • ばくきょんみ ハングゲ
  • 広瀬大志  Watch the sky(百年後にはだいぶ滅びている)
  • 田中宏輔 SAME OLD SCENE
  • 小笠原鳥類 メジロおそろしい
  • 及川俊哉 わっしょい!生命! 
  • 文月悠光 シンメトリック
  • 新井高子 機神考 
  • 宮尾節子 鶴を
  • 相沢正一郎 づくしうた
  • 支倉隆子 悲しき熱帯
  • 小島きみ子 Fantasy レッスン
  • 大崎清夏 人間以外の娘たち
  • 藤原安紀子 (途上型) 
  • 鈴木一平 土がおぼえた
  • 根本明 うつつの池
  • 広田修 はじまり
  • 峯澤典子 初盆
  • 高階紀一 浴室の歌
  • 松井茂 量子詩第985番/純粋詩第一○○○番
  • ジェフリー・アングルス 日々の救出(デイリー・デリヴァランス) 
  • 金子彰子 August.201
  • ヤリタミサコ 風が今ここにある窓 4
  • 和合亮一 牡蠣
  • 清水あすか 右の空豆から降る雨
  • 海埜今日子 あかるくって、さびしい家は、坂の上にありました
  • 管啓次郎 眠り踊りのはじまり
  • 冨上芳秀 蕪村との対話・聖フランチェスコ
  • 高貝弘也 子魂
  • 田中庸介 左隣の虎たちよ!
  • 西本直子 熱帯植物園
  • 北爪満喜 視界
  • 久石ソナ やさしい頭痛
  • タケイ・リエ ゆうぐれ
  • 暁方ミセイ 耳煩光波
  • 橘上 M/OTHER
  • 白鳥央堂 東京
  • 金澤一志 それはすぐに私は行くべきである。
  • 川口晴美 トワイライツ
  • 今唯ケンタロウ すてきなドライブ
  • 水無田気流 あだじおあさると
  • 榎本櫻湖 Chaconne pour violoncelle seul
  • 蜂飼耳 どきゅ、 
  • 高塚謙太郎 大坂らんちう
  • 伊藤浩子 Non passionnée 
  • 佐伯多美子 ボクら
  • 杉本真維子 営繭
  • ni_ka 供述調書
  • 谷川俊太郎 ●●中也 
  • 関口将夫 眼を生む
  • 荒木時彦 ウミガメの泳法
  • 時里二郎 オルガン
  • 和田まさ子 特別な一日 
  • 四元康祐 白球の軌道
  • 阿部嘉昭 なる
  • 日原正彦 蝉は
  • 和合大地 都会
  • 宮岡絵美 Answer
  • 高木敏次 相手 
  • 柿沼徹 凹み
  • 岡本啓 訪問販売
  • 久谷雉 ラヂオデイズ 
  • ほしおさなえ 万博記念公園 
  • 渡辺玄英 朝の(記憶の
  • 小川三郎 穴
  • 黒崎立体 花が燃えるとき
  • 木戸多美子 マイルストーン
  • 野村喜和夫 百年の暮鳥
  • 一方井亜稀 遠景
  • 為平澪 花火
  • 外山功雄 モナーク Mondo and Loid
  • 中島悦子 屋上
  • 松本秀文 好きな人にこれから告白しようとする男の禁断のトーク
  • 城戸朱理 bluebird (NO-WHERE/NON-HERE)
  • 渡辺めぐみ 非戦――ルネ・マグリット作「女たち」に寄せて 
  • 柏原寛 まほろ
  • 平川綾真智 g・アンダーカレント
  • 北川透 難路行く
  • 一色真理 検閲 
  • 大江麻衣 鬼哭
  • 廿楽順治 密厳院の七
  • 紺野とも エルゴノミクス/嚮後 
  • カニエ・ナハ ラボ帖
  • 須永紀子 茨の家
  • 福田尚代 魚が無辺へ
  • 長尾早苗 棘
  • 小林坩堝 風景
  • ブリングル いちめんの
  • 大谷良太 秋夜
  • 小峰慎也 不安だが
  • 亜久津歩 野蛮な禱り 
  • 浜江順子 密室での惑星
  • 永澤康太 この子がいなければ 
  • 金子鉄夫 そんな、キミがやっぱり大好きさ
  • 斉藤倫 殺人選挙カーの襲来
  • 三角みづ紀 舵人

執筆者一覧(五〇音順)
編集後記


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