2004年11月、本の友社から刊行された山下武による評伝。
「死者はいつまでも若い」(アンナ・ゼーガース)とは、僕の好きな言葉である。夭折した少年少女の上に思いを馳せるたび僕はいつもこの言葉を憶い出す。ここで言う「夭折」とは、豊かな文才を持ちながら満二十歳以前に世を去った薄幸の少年少女を指すが、僕にはかれらが誕生以前において早くから世を去るよう運命づけられた人たちのように思えてならない。それのみか、「生まれた時から死ぬ気で生まれてきた」者(長沢延子)や、ナルシシズムの色濃い小説の延長線上に夭折という終末論の構図を描いた者(加清純子)に至るまでその中に含まれている因子は決して偶然ではないのであって、その代表的な例が二十歳を目前にして入水自殺した原口統三であろう。彼が十九歳十ヵ月の生に敢然と終止符を打ったのは、あくまで夭折が冷徹な計算の上に立った「自殺予告者」原口統三の既定路線だったからにほかならない。船を焼きはらい自ら退路を絶ったコルテスさながら、書きためた詩稿を尽く焼き捨てた彼にとって、もはや自裁は存在証明の唯一の手段であったのである。
(「夭折者について」より)
目次
夭折者について
- 藤村操――「厳頭之感」遺し、投身自殺
- 縣满天雄――十六歳の筆と思えぬ早熟さ
- 宮田千重子――看病の教師が励まされる
- 清水澄子――文壇からも注目された天才詩人
- 奥居頼子――天与の空想力と詩魂
- 山川彌千枝――文才惜しんだ川端康成
- 平山千代子――瑞々しい感受性と同情心
- 千野敏子――「真実」を追求した魂
- 原口統三――詩稿、悉く焼き捨てる
- 中沢節子――服毒自殺した哲学少女
- 長沢延子――終末論としての弁証法が自殺を招く
- 蛭田昭――数学に没頭した挙句の果てに
- 加清純子――天才少女画家、阿寒に果つ
- 松尾太一――社会改革めざした誠実な魂
- 福本まり子――鬱病と差別に苦しんで
- 小池玲子――死への誘惑、断ち切り難く
- 山田 かまち――学歴社会批判が同世代の心つかむ
- 井亀あおい――愛されたかった文学少女
あとがき
書評等
書物と音盤 批評耽奇漫録
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真実を生きる 千野敏子の魂(まるい空)
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