2011年2月、東京大学出版会から刊行された秋草俊一郎によるナボコフ研究書。
目次
まえがき
凡 例
序章 自己翻訳とはなにか
- ナボコフの生涯
- ナボコフのバイリンガリズム
- ナボコフとコンラッド
- 自己翻訳という「業」
- 自己翻訳の歴史
- ナボコフとベケット
- 自己翻訳と亡命
- ナボコフとクンデラ
- 自己翻訳という「勝利」
- 『ナボコフ・トランスレイテッド』
- 「大規模な改作」と「小規模な改作」
- 自己翻訳=改作?
- 原作>翻訳?
- 自己翻訳のオリジナリティ
- 「細部を愛撫せよ」
- 残された課題
- 自己翻訳を用いた作品分析とは
第一章 ナボコフの「自然な熟語」――「一流」のロシア語から「二流」の英語へ
- 「二流」の英語?
- ロシア語と英語の狭間で
- 「自然な熟語」とはなにか
- 賦活される慣用句
- ストーリーに織り込まれた慣用表現
- 「メノウのような目」――『ディフェンス』
- 「足から倒れる」――「報せ」
- 「すべての目で見る」――『目』
- 擬態を捨てた蝶
第二章 短編「報せ」――ホロコーストのあとさき
- 「報せを伝える」コンテクスト
- 付け加えられた名字
- 父称というシステム
- ベルリンのユダヤ人たち
- ナボコフとユダヤ人
- 書きかえられた「報せ」
- 読者に感染する「言及強迫症」
- 自己翻訳に「誤訳」はあるか
- 絡み合うコンテクストの再生
第三章 短編「重ねた唇」――消えうせた杖と組みかえられたトリック
- 仕組まれたトリック――短編「ヴェイン姉妹」
- 風刺小説としての「重ねた唇」
- 登場人物の作品を添削する語り手
- ロシア語版と英語版の違い
- ナボコフの「異界」
- 英語版――「杖」の消失
- ロシア語版――「彼女」を探せ
- 創作・自己翻訳の過程を復元する
- 残された杖
- 最後の謎――私信としての小説
第四章 『ディフェンス』――モラルをめぐるゲーム
- ナボコフ小説の典型?
- 名前の告知
- ルージンの「静かな手」
- 問いと答え
- 感情のアンビヴァレンス
- ルージンの感情教育
- おとりとしてのチェス
- ソ連から来た少年
- なにがルージンを殺したか
- 勝負の終わり(エンドゲーム)
- 感想戦――モラルゲームとしての小説
- 『ディフェンス』から『ロリータ』へ
第五章 『ロリータ』――ヘテログロッシア空間としてのアメリカ
- 『ロリータ』の「言語」
- 『ロリータ』の「リンガ・フランカ」
- フランス語をめぐる攻防
- 自分を美化する語り手
- ロシア語版『ロリータ』
- 揺らぐハンバート
- 怪しいフランス語
- 流された手紙
- ガリア人の部分
- ロリータとフランス語
- ロリータ」とはなにものか
- 人間の言葉
- 二つの『ロリータ』
- トーク・トゥ・ハー
第六章 訳注『エヴゲーニイ・オネーギン』――樹影譚としての翻訳論
- 畢生の大著『オネーギン』訳注
- 抜け落ちた歯
- ナボコフのアメリカ時代
- 『オネーギン』と自己翻訳
- 生物学者ナボコフ
- 写しとられた樹
- 翻訳の三類型
- 「チェリョームハ」の木陰で――ロシア語時代
- 香るチェリョームハ
- 短編「環」
- セルフ・リファレンス・エンジンとしての翻訳
- 「ラセモサ」なしに――アメリカ時代
- 三冊の自伝
- 失われた樹を求めて
- 滲む景色
- 見いだされた樹
- 亡命の栄光と悲惨
- 花咲く庭で
第七章 ナボコフの「不自然な熟語」――エクソフォニー、あるいは「外化」から「異化」へ
- 母語の外に出た作家たち
- 「足短に言えば」――エクソフォニーとは
- 逸脱する慣用句
- 「密輸」された遺産
- 『オネーギン』から英語作品へ
- 同化と外化
- エクソフォニーの血統
終章 訳された「私」
あとがき、あるいは『ナボコフ 訳すのは「私」と題する書物について