1961年12月、未来社から刊行された熊王徳平(1906~1991)の短編小説集。
この集に収めた九つの作品は、昭和三十一年頃から三十六年へかけて、「文芸春秋」と「作家」へ発表したものである。
果してこの九篇を、随筆であるか、小説であるか、私は知らない。熊王徳平という人間が主人公になっていないのは「山峡町議選誌」だけである。
だが、ほんとのことを言えば私は、どれもみんな、小説の心算で書いているのである。私の友人西山安雄は、フィクションでなければ、小説ではないと言っている。そうであろうか。近松秋江は、芥川竜之介を認めなかった。秋江は、あの、才気の横溢した竜之介のフィクションを嫌いだったらしい。
私は、芥川竜之介のフィクションを好きである。好きだが、真似ようとは考えない。所詮、人にはそれぞれの個性があって、仕方のないことだと思っている。 私は、小説は、長篇叙事詩でなければならぬと考えている。ショーロホフの「静かなドン」や梶井基次郎の作品を読むと、強く、詩を感じる。反対に、近頃流行の推理小説や剣豪小説を読むと、いつも馬鹿馬鹿しくなって拠げ出してしまう。いったい、どこに、詩があるのだ。
(「あとがき」より)
目次
あとがき