2006年10月、ふらんす堂から刊行された薦田愛の第3詩集。装幀は君嶋真理子。
長くひもとかずにいた作品を起きあがらせ、読み返す。
対の詩集となるようにまとめられればとひそかに願い、一方(『ティリ』七月堂刊)のみで力尽きていた、その一冊を今、編むのだ。書き手の個性よりも、書いた時代の匂いのほうが強く浮きあがるのではないか、と懼れた。
言葉を追うと、かすかな痛みが記憶の薄皮を刺戟しはじめる。「私」が山道を歩き、あるいは見知らぬ町をさまよう姿に寄り添って読みほどくにつれて、紛れもない刻印が、作中の情景の、そこここに遺されていることに気づく。これは、時代のにおいなどいささかもそなえていない、明らかに私という書き手の、略しがたい軌跡なのであった。
むろん、身の内からあふれた言葉ばかりではなく、離れて暮らしていた明治生まれの祖母の声音や佇まいなども織り込んでいる。すでに演劇作品へと形をかえて観客の耳目に届けた一節もある。
起きあがらせた作品に、半ば他者のように触れ直しながら、いま新しい言葉の訪ないに驚く季節を迎えたことを記しておきたい。
これらの言葉はあなたのもとへ、どのように届くのだろう。
(「ことの次第」より)
目次
- 出立
- 海駅
- 細片回収
- 肉鞠
- 犬肉
- 夜曲
- 転宅
- 秘匿
- 甜贄
- 杣道行
- 溶暗
- けふのみちゆき
- 暮れ参道
- 夜行縁起
- 姐振峠
- 快キ哉
- 好日
- 花野辺
- 石積み(Ⅰ)
- 石積み(Ⅱ)
- 石積み(Ⅲ)
- 石積み(番外)
ことの次第
関連リンク
薦田愛さんの『流離縁起』出版お祝いの会(KO.KO.DAYS ここでいず)
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