1995年3月、夢人館から刊行された坂本つや子の詩集。装幀は林立人。「ゆめひと詩
篇」3。
前詩集『黄土の風』は、満州で生きた十代の記録であった。自分の生きていた時間を書くことは想像以上に手ごわかったが、今は、裸の自分を直視して書くしか方法がなかったのだ、と言いきることができる。
今回まとめた『焦土の風』は、昭和二十年の敗戦から昭和二十九年までの根無草のような二十代の生活の、初めの部分である。予想どおり楽しい作業ではなかった。しかし書いておかねばならない、という烈しい決意がわたしにはあったといっていいだろう。
詩に昇華し得たかどうか、いつも不安の中で書いているわたしである。過去の事実は、いつも厳しい顔をしているが、いまさら怯えたところでどうしようもない。
唯ひとつ良かったことは、自分を見つめ直しすでに名も忘れた多くの人々に、たびたび助けられ、ほんとの地獄の底まで落ちずにすんだ幸せを、はっきりと確認できたことである。
(「あとがき」より)
目次
- 昭和村
- 昭和二十年八月六日
- 敗戦
- 山津波
- 呉共済病院 その一
- 呉共済病院 そのニ
- 坂の曲り角の家
- 母の手紙
- 売春宿 その一
- 売春宿 その二
- 午後の男 その一
- 午後の男 その二
- 午後の男 その三
- 昭和二十二年の夏
- タオルのおじさん
- 骨膜炎
- 床屋のかあさん
あとがき