1984年11月、大和書房から刊行された北村太郎の詩人論。装画は北村紀子、装幀は菊地信義。
目次
- 吉原幸子
おそろしさとは
ゐることかしら
ゐないことかしら
夫婦というものの
ああ、何と顔をそむけたくなるうとましさ
わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
けれども喉がからからな夜
たまらなくてむすこは青い月をかじったのでした
俺 は生きてても
俺 のあれは あれじゃない
冷えてしまったままだ
あんた
あたしのオシッコするとこみてよ
ぼんやりしないで
ついでにあたしの足を洗ってよ
- 牟礼慶子
天は高いところへ
ひばりの秘密をのぞきに行って
そのままおりてこない
あたしが飼ってた大きめのマルチーズ
そのかわいさ
そのかわいそさ
私はあなたへと白く光を発し
溺れていくのを見守っている
身をのせて
しずめてあげることもできる
愛は 水蜜桃からしたたり落ちる甘い雫
愛は 河岸の倉庫の火事 爆発する火薬 直立する炎
死んだひばりをさわってみた
それから
アルフレードの肩に さわった
- 小柳玲子
墓穴はできるだけ大きく掘りなさい
夜が白っぽいうちに
犬は死ぬと 急に大きくなるからね
いや
時間は食物ではなく
排泄物からもしれないぞ
- 垂水千賀子
まがいのないものとして
真打ちの自覚を胸に秘め
ほんのり赤くなった頰は繊細にふるえながらも
昂然とひかりかがやいている
- 白石公子
寝るたびに死ぬ練習して
少しずつ完全にしていく
あたしらの秩序
- 松井啓子
柵のむこうから
「いつものように
何か食べるものを 舌にください」
- 青木はるみ
魂などというものは
あらわれてしまえばみの虫よりも貧相だ
何ンにつけ 一応は
絶望的観測をするのが癖です
おんな・詩・いま
あとがき
詩人別詩集リスト
詩人別詩索引