1993年9月、沖積舎から刊行された上田周二(1926~2011)の随筆集。装幀は戸田ヒロコ。
純真でいられた子どもの頃には、誰にでも一つや二つメルヘンの世界に通じるような良い経験を持ったことがあるのではないか。私にもそうした経験の記憶が一つあり、それは齢を重ねるにつれて美しいもの、懐かしいものへと化してくるので、ついに文章にしないではいられなくなった。
本書のなかで「懐かしい光景」と題した一編がそれである。
これは自分の雑誌「時間と空間」に発表した。
本書に収録した他の二十二編は、詩とエッセイの季刊雑誌「共悦」に、主幹の矢野克子さんのご厚意により連載したもので、私が成人するまえにどのような幼・少年期を送ったか、を書いた。
私は幼・少年期を戦前の東京下町(上野・下谷・浅草)で過ごした。
本書は、私の回想による貧しいオートバイオグラフィの短い断章でしかないが、私個人のささやかな生のいとなみと、時代の流れなどを、汲みとっていただければ、著者としては、うれしいことである。
出版に際しては、かねてから尊敬する純文学の作家・八木義徳氏から温かい助言を頂戴し、帯文まで書いていただいた。こころからお礼を申し上げたい。
(「あとがき」より)
目次
- 生い立ち
- 病気のこと
- おびえ
- 街で夢みる
- もうひとりの姉のこと
- 小学校Ⅰ
- 小学校Ⅱ
- うらやす点綴
- 再び浦安へ
- 父親と私
- 再び父親のこと
- 懐かしい光景
- 回り灯籠
- 情緒と紙芝居
- 南京虫が襲ってきた
- 荒川放水路で泳ぐ
- 安政六年生まれの祖父
- 祖母と母親の血筋
- 長男と次男
- 小僧さんのこと
- 勿来(なこそ)のこと
- 私の下町
- 夜の近づき
あとがき