1986年10月、青礫舎から刊行された佐藤しづの第3詩集。
このごろ、しきりに亡くなった人びとのことを憶い出します。
私をいちども叱らなかった父や母、そして二人の兄。結婚してから移り住んだ満洲の奉天の街で、最初に迎えた元日の朝生れた長男は、思いもかけず十九歳の初夏、この世を去ってしまいました。敗戦後一家で引揚げてから何度も引越しをして、やっと調布に落着いた六年後のことでした。あの時長男の死を嘆き悲しんだ夫も、今から七年前にやはりがんで逝ってしまいました。
みんな、私にとってはかけがえのない大切な人たちでした。戦中戦後のはげしい時代に、信じあうことを第一の心の支えにして、やっと過してきた家族だったのです。
大切な人びとを喪った悲しみや苦しさが、心の底へ深く沈んでいった今は、心を切りかえて、楽しかった昔の憶い出をひとつずつ浮びあがらせたなら、私の心は再び生きかえってくるかもしれない。亡くなった人びとといっしょに過ぎ去った眩しい世界が、再び戻ってくるような気がしてならないのです。
(「あとがき」より)
目次
- 冬の銀杏
- 柘榴
- 見知らぬ道
- ドランの絵
- 黒猫
- 天窓
- 凩
- おなじみの夢
- 辛夷
- エテビア
- 冬陽
- 絵はがき
- 山吹
- 小さなたき火
- 月見草8
- ケーキ
- 若い銀杏8
- 夕立
- リュックサック
- 瞬間
- 初冬の風景
- 夏の猫
- 影
- 梅雨ごもり
- 霧雨
- 頂上の花
- 早春のバス
- あのころ
- 冬の朝
- 紅葉
- あじさい
- 樹
- 曇り日
- 蠟梅
あとがき