2013年8月、思潮社から刊行された三田洋(1934~)の詩集。
一歳二か月の晩秋、兄が死んだ。ジフテリアに罹り呼吸ができず喉の穴に吸引管を差し込まれたまま。享年四歳。感染症のため、幼児をもつ母おやは病院へも行けず自宅で息を抑えるような日々を、私を抱きながら過ごしたという。不安哀しみ祈り無常のシンとした名付けられない静けさのまんなかで、私の「ものごころ」(プロローグ)は始まっていった。もしかしたら、世界はじぶんのかなりの奥行きを一歳の子に見せてしまったのかもしれない。見せられたことがよかったのかどうか今もわからない。生きているとは生かされていることなのだろう。
その意からもii「仮面のうしろ」はすべての始まりといえるかもしれない。それは各章を多彩に経由しながら最終的には部屋のデスク上の写真の兄へとすべてが吸引されていくのだろう。終わりのない問いと名付けられない哀しみと感謝の念を抱きながら。
東日本大震災は生き方や世界観を激しく振動させ、すべてのリセットを提起した。詩もその激震を被り、本道への回帰を促されたはずである。個として(プロローグ)の主題は変わることはないが、詩の本道・ことばと抒情の秘境を究めるという多難な挑戦を続けたいと願う。
(「あとがき」より)
目次
i 六本木のムンフさん
- 約束の時空
- 六本木のムンフさん
- 哀しい時空
- 天空のプロフィール――ちいさな朗読のために
ii 仮面のうしろ
- とおりゃんせ
- 仮面のうしろ
- 空のほとり
- 砂の内訳――青海島中ノ浜原景
- 蟻の来歴
- なみだ
iii 現在
- 現在――夢の地層4
- SecondLife
- 声
- 眼球あるいは遠近法論
- 覇者
- キルケゴール
iv 悲コラージュ
- 悲コラージュ
- E=mc2
- だいじょうぶ
- 地層――四川大地震によせて
- みすゞさんの黒髪
- Fortune
あとがき