1970年10月、日本未来派発行所から刊行された上林猷夫の第4詩集。装幀は鶴岡政男。
第三詩集「機械と女」を出してから、十四年経ってしまった。私にとって最も大事な時期なのだが、私は或る理由から、与えられた運命に忠実になろうと努めた。ひとりのビジネスマンとして、企業の内部に没入し、繁煩な日常性の中から、人間とは何かを、見つめようとした。そして、ひとつひとつ憑きものが落ちて、どうやらいわゆる定年に至る私のプログラムは終ろうとしている。
振り返ってみると、病院をかかえた私にも、危機が幾たび通り過ぎただろうー。この間、気がついてみると、詩の出発を同じくした池田克己につづいて、小池亮夫、島崎曙海、宮崎譲の親しい仲間は死んでしまってもう何処にもいない。また、「僕は新聞記者、君は外交官」といって、一緒にフランスへ行こうと話し合った中学時代の友人森居敏三は、ほんとうに外交官になり、復員後ウルグァイ、ペルーの在外事務所の開設に当ったが、不幸なことに急死してしまった。森居が生きていたら大使級だろうに、みんな思えば思うほど、取り返しのつかない人生の空しさを覚える。
戦死した日垣又信、鎌田理市、浜田乃木、渋江周堂の詩業についても、書き留めておかねばならないのに、未だに果せないでいる。
この詩集「遠い行列」に収めたものは、昭和三十一年以降のもので、何れも衰弱の果ての所産であり、全く歯痒いものばかりだが、戦後いつも私に重くのしかかるものを見つづけてきたといえよう。
(「あとがき」より)
目次
- 乾いた眼
- 遠い行列
- 二つの眼
- 黒い眼鏡
- 二つの歌
- 朝の歌
- 道路の歌
- 朝の駅
- 寂寥の人
- 小さな噴水
- 橋
- 会話
- 波止場にて
- 十月のキリギリス
- 修学院離宮
- 季節
- 白い針
- 北の国
- 見えない祭壇
- 現代の埴輪
- 街のサーカス
- 小さな灯
- 七月のシャンソン
- 街の中で
- 港が見える丘
- 五つの夢一つの言葉
- 朝の鏡
- ある記憶
あとがき