2009年5月、未知谷から刊行された宮静枝(1910~2006)のアンソロジー。編集委員会メンバーは、吉野重雄、八重樫哲、東野正、藤野なほ子、斎藤彰吾、山本久美、大村孝子、森三紗。
このたび、詩人宮静枝のアンソロジーが出版されることは、久しく待ち望まれていて、心から慶賀に値することである。
選集は、第一詩集『菊花昇天』から、第十詩集『さっちゃんは戦争を知らない』に至るまでの詩作品の中から選ばれている。
ここでは、宮静枝の詩精神が、はじめは小さな清冽な流れから、陽に輝く流れとなり、ついには滔滔たる大きな川となって流れている。
選ばれた言葉は、時には透明、硬質であり、優雅であったり、悲哀に満ちていたり、弱音となり、強音となり、その織りなすハーモニーは、躍動し、かつ、鎮魂の調べとなっている。
作品には、宮静枝の人格、思想、哲学、生活史が映し出されており、眩く、魅了するものである。
作者は、岩手県南の豊穣な地に生まれ、幼少期は恵まれて、大正デモクラシーの中で育ち、早くから詩作し、同人誌活動にも参加した。
第二次世界大戦が始まり、岩手に帰るが、その前後から、人間性を蹂躙する戦争に対して、反戦の思いが芽ばえ、やがて熟成されて、バックボーンとなった。
宮沢賢治の生まれた風土で、戦後は高村光太郎と出会い、村上昭夫を始めとする岩手の詩人達との出会いも、詩人の詩活動に深く影響したと思われる。
女流詩人として孤高の道を歩み、叙情性と叙事の心も有し、随筆にも本領を発揮し、集まる人々を和ませる慈愛の人であった。
(「序文森荘祐」より)
目次
序文 森荘祐
初期詩篇
第一部
第一詩集 菊花昇天
- 菊花昇天
- まつり
- 白い風
- 樹液をもつ女
- 雪蛾
- みちこ
- 原生林にて
- 文彦
- 菜の花短章
- 父 岩手山
- チャグチャグ馬っこ
- 山にのぼって〈一つの記録〉
- 天の祭り
- 山の物語
- 中津川旅情の地図
- すかんぽ
- 海のひぐらし
第二詩集 花綵列島
- 晩鐘偈
- 菜の花浄土
- 菜花黄昏
- 菜の花月夜と野の佛たち
- 十字の喪章
- 水の中の兵隊
- 還らぬ銃
- 軍馬
- 杳い花
- 海と菜の花
- 特攻花
- 香魚
- 天のぶらんこ
- 毬をかがる
- 猿おがせ
第三詩集 北怨の賦
- 青い雪蛾
- 遠くなる馬
- 竹心
- 遺骨収集船が還る
- 北怨雪譜
- 冬の旅
- 中尊寺残欠
第二部
第四詩集 蝶の階段
第五詩集 無限花序
第六詩集 北の弦
- 北限の海女
- 雪ぞ降る
- 百合信仰
- ムグンファ
- 世界のたそがれ
- 癌病棟
- 七時雨
第三部
第七詩集 山荘
- 原始の林檎
- 悲しみの蝉
- 吹雪の光太郎
- 山荘物語
- 北への道
- 蝉を彫る
- わが蝕
- 山荘生活設計図
- 智恵子の泉
- 白磁啾啾
第八詩集 不犯の罪
- 火の舟
- 光太郎の祭壇
- 駅馬車
- 地球は緑の星だから
第九詩集 非在の椅子
- 一行詩 非在の椅子
- 昴
- 角のない鬼
- たいまなこ(大眼)
- 利休鼡
- 幼なかりにし
- 鮭笛
- 谷紫
- もう一人の光太郎
- 桜の老木の下で
- 桜
- 光太郎断機の桜
第十詩集 さっちゃんは戦争を知らない
補遺詩篇
- 還らざる五月
- 化成場の詩
- 寒菊(子に)
- 火山列島の秋
- 海高野
- わたしはここにいる
- 啄木望郷の詩
- 杜陵城下の吟
- 農の讃歌 大いなる道
- ふじ子まんだら
- 名をこそいとしめ
- オルタンシア物語
- 賢治詩碑除幕の朝除幕
序文・跋文より
- 第一詩集『菊花昇天』森荘已池
- 第二詩集『花綵列島』宮静枝
- 第四詩集『蝶の階段』西三吉
- 第五詩集『無限花序』みやこうせい
- 第六詩集『北の弦』遊座昭吾
- 第九詩集『非在の椅子』高橋昭八郎
- 第十詩集『さっちゃんは戦争を知らない』 吉見正信
宮静枝 年譜
愛と平和を求め文学ひとすじの道 森三紗
ひたすらに…… みやこうせい