1976年10月、無限から刊行された松林尚志の第1詩集。装幀・口絵は北山泰斗。
詩を書き始めたのは、「無限」が創刊され、村野四郎先生から投稿を勧められたのが機縁であるから随分長い年月が経ってしまったことになる。この間、詩を細々と書き続けてこられたのは、先生のはげましと、「無限」の縁で集った星野徹、中崎一夫、下山嘉一郎、山口ひとよらと詩誌「方舟」を続けてくることができたためである。「方舟」もすでに十年目を迎えた。今度、「無限」から処女詩集を出してもらうことになり感慨なきを得ない。
終始心の支えでもあった村野四郎先生は今は亡く、とうとう一冊の詩集すらもみて頂くことができなかったことはなんとしても心残りである。今は自らの非才を嘆くのみである。
一部の散文形式の作品はアンリ・ミショーの影響が多分にある。ミショーからは、従来の抒情と違って、ごく卑近な感情も詩となり得ることを教えられた。二部は、時期的にも古いものからごく最近の療養時の作品まで長い年月にわたっていて、さまざまな影響がさまざまな作風となって雑居しているといえるかもしれない。今もって、いつ書けるか、どういう中味になるか、それが詩であるかどうか、自分で保証できないというのが実感である。詩は私にとって気まぐれな訪問者であり、詩を手籠にするようなことは私には一生できない気がする。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ『H・Eの生活』
- 青春
- 管――北山泰斗氏に
- 重力
- 法廷
- のろまざる
- 鉤
- 肉体
- 旅
- メカニズム
- 衛生法
- 闖入者
- 家畜
- 両棲類
- 蕩児
- 鞄
- 樹木
- 飼育
Ⅱ
- 会話
- 二月
- 天体
- 淵
- 電流
- 時
- 味爽
- 月
- 森
- 霜
- 小舟
- 休日
- 美ヶ原にて――高橋玄一郎氏に
- 午前零時のハイヌーン
- ある虚無
- 病床四題
- 窓辺
- 陰影
- 教授
- ままごと
跋 中崎一夫
あとがき