猟女犯 元台湾特別志願兵の追想 陳千武/保坂登志子

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 2000年1月、洛西書院から刊行された陳千武(1922~)の小説。翻訳は保坂登志子。表紙・装画は保坂陽一郎。

 

 太平洋戦争という大波瀾に遭遇し、私は台湾特別志願兵として、ティモール島濠北防衛作戦に参加した。台湾高雄港を出航、シンガポール、ジャワ、ティモールと一回りして、終戦後一年経って、台湾基隆港に辛うじて上陸、帰郷した。その従軍四年間の体験思い出を記しておく事に、ある種の使命感を抱いていた私であるが、然し、直ちにそれを執筆することはできなかった。
 敗戦兵の身で、植民統治よりもっと苛酷な独裁政権下にあって、中国統治者側から、かつて日本の手先であったという怨恨を背に受けて生活するのは、苦にはしなかったけれども暗く重い体験であった。
 使い慣れた日本語と台湾語を禁止され、話せない中国語を強制的に押しつけられて、全くの文盲、思想のない愚民に仕立てあげられた。殊に二二八事件や白色恐怖の監視下で暮らす辛さを骨身にしみて味わった。
 そのため、終戦二十二年後の一九六七年になって初めて、私は戦争体験の強い印象を日本語で記したメモを辿って、中国国語で書くことができるようになり、一九八四年まで十七年間、十七篇の追想の自伝小説を書きあげ、熱点文化出版社から『猟女犯』の書名で出版した。
 出版と同時に、これは時代の証人である台湾人作家の書いた唯一の戦争小説である、と好評を受けた。実際に「猟女犯」は呉濁流文学賞を、「求生の慾望」は洪醒夫小説賞を受賞した他、「旗語(手旗信号)」「輸送船」「黙契」「異郷の郷愁」「遺像」などの作品は、台湾ばかりでなく中国に於いても思いがけぬ好評を得ている。
 この台湾文学に於ける唯一の戦争小説集から、代表的な作品を抜粋して翻訳、日本語版として出版されることは、私にとってこの上ない喜びであり、光栄の至りであると感謝しています。
(「『猟女犯』日本語版に寄せて」より)

 

目次

・輸送船

・猟女犯

  • 1天然捕虜の島、ティモール島
  • 2女の捕虜たち
  • 3バギャ城の慰安所
  • 4女狩り、女は商品
  • 5台湾語を喋る女
  • 6あなたが台湾人なら私を助けて
  • 7男色の人事係准尉
  • 8原住民の勇士の報復
  • 9アテビアン高原のバギヤ城
  • 10おれはお前たちを恨んでいる
  • 11女たちの性の訓練
  • 12戦場の男と女
  • 13現在を楽しむ原住民の女たち
  • 14原住民の勇士の苦悩
  • 15全員外出、慰安所
  • 16ぼくには狩りはできないよ

・生への欲望

  • 1兵士の開墾と植え付け
  • 2あなた、結婚しないか?
  • 3国王の娘スーシャン誘惑
  • 4魅力的な女スーシャンの急襲
  • 5忠実な秘書イルダ
  • 6不服従の原住民
  • 7原住民のもてなし
  • 8地雷と手榴弾
  • 9林兵長、スーシャン王女とともに
  • 10ねらっている軽機関銃
  • 11戦友モロナとの再会
  • 12オーストラリア空軍の偵察
  • 13林兵長と別れをおしむ原住民

・外地に蘇る郷愁

  • 1自殺した青年将校
  • 2敗戦、大隊長の苦悩
  • 3林兵長の悲しみ
  • 4現地人の温情
  • 5日本軍がジャワの治安維持

・黙契

  • 1とにかく重機関銃を撃っておけ
  • 2オランダの娘マサと林兵長
  • 3日本もインドネシアもムルディカ(万歳)
  • 4ゲリラ、オランダ娘を捕まえる
  • 5マサとの再会
  • 6林兵長はマサの恩人

・遺影

  • 1台湾青年二〇万人、特別志願兵に
  • 2欽志願兵と恋人
  • 3欽の出征
  • 4恋人が慰安婦に?
  • 5どら息子と巡査の横恋慕
  • 6動乱の中で欽、死す

参考資料
ティモール島概念図
著者の記憶に基づくティモール島東部防衛隊配置図
陳千武軍歴表

<解説>詩人陳千武と東ティモールの歴史 高橋喜久晴

あとがき


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