1962年1月、角川書店から刊行された新藤涼子の第1詩集。
新藤涼子さんは形象のない対象或いは自分の内部にはいっていってその中から声を出す。その声が詩作という道程をへていつの間にか形づくられる。一つのバラの花は彼女にとっては血の象徴であり血に形を与えバラにする。そうしてバラは第二の声をだす。
乳房が「血の壺」であるという激烈と普遍。新しい酒がここでは新しい器の中で新鮮に悶える。
新藤涼子は槐多のような血だるまではない。たぷたぷ流れる血の叙情だ。
(「序/草野心平」より)
――様
今 私は不具の子供を生みおとした後のような気持で居ります。
おそれとはずかしさと可愛いさ不憫さの入り交った褥の床で身動き出来ない母親の悲しさが そっくり私をつつんでいます。
そして 自分の生んだものが何であるのか答えることが出来ないのです。
その為に私はまだまだ大切に生きねばなりません。
自分の生んだものについてあなたに答える事が出来る日迄 根気よく待たねばならないからです。
おそらく 私がほろびる日迄その意味をあつめ続けることでしょう。
日々 私の中にかえってくる私の時の廻りを 暖かくまたは激しくつつんで下さったあなたに 此の様な不具の子供を差し上げることを御許し下さい。(「あとがき/新藤涼子」より)
目次
序
- 果実
- 新しい料理場
- 白い流れとわたしの夜と
- 石
- 旅へのいざない
- 岸辺で
- うた
- 薔薇について
- 言葉
- 野の涯で
- 一枚の画
- 合唱
- 天使のうた
- 小雨をかむり
- 虚(すきま)
- 季節を
- 街のうた
- 樹になろう
- いわないで
- 木の葉
- 五月に
- 薔薇
あとがき