天地 日野啓三

f:id:bookface:20190614142651j:plain



 1999年5月、講談社から刊行された日野啓三の長編小説。装幀は山崎英樹、装画は難波田龍起”白い線A”。

 

 関東平野の北西、群馬県から日光に抜ける山中の国道を車で走った。一九九六年秋のこと。その地域の山林で枯死する樹木が増えている、と新聞で読んだから。
 そして国道のすぐ脇で、その小さな湖に出会った。湖岸の公営キャンプ場はすでに閉鎖していて、他に一軒の民宿も休憩所も人家もなく、暗く透き徹る水面は海抜千七百メートルの秋冷の気を凝縮して、ただ静謐だった。まわりの山腹から点々と突き出た死木の白い枝を、夕陽が赫々と染め……何かこの世のものならぬところという強烈な印象から、「天池」という古い言葉を自然に思い浮かべた。
 ただし古びたボート乗り場の浮き台が、長く湖中に突き出していなかったら、そこを小説の場所にしようとは思わなかっただろう。先の切れた浮き橋の上を歩く幾つもの幻影の後姿が、見え隠れした。その人たちの運命を知りたい、と激しく思った――あの影たちは私だ、と。

 二年余にわたった連載中に、二度も手術をしなければならなかった(転移ではなく共に原発)。それまで書いた分を封筒に入れ、「遺作未完」と表書きして入院した。いま完結して「あとがき」を書いているのが、夢のようだ。
 ただ再度の中断が作品の流れを乱したのではないか、と恐れている。生き直す気で書き継いだから(第V章の終りと第V章の終り近い部分で)。
 少し休んでから、次の長篇を書くだろう。今度はどんな地霊たちに出会うだろうか。
(「あとがき」より)

 

 

目次

  • Ⅰ 夜は山をのぼる
  • Ⅱ それぞれの湖
  • Ⅲ 傷
  • Ⅳ ふたりはひとりではない
  • Ⅴ 目を覚ませ
  • Ⅵ 静寂の奥行
  • Ⅶ 光る闇
  • Epilogue

あとがき


NDLで検索
Amazonで検索
日本の古本屋で検索
ヤフオクで検索