1994年8月、詩学社から刊行された本間容子の第2詩集。装画は本間要一郎。
冬のことである。わたしが六歳で、弟は四歳だった。でも、わたしはまだ小学校へ上っていない。
ある日、村に住んでいる祖父が、用事があって、町へ出て来た。おそい「ひる飯」をうちですませ、夕方村へ帰る。祖父は、わたしと弟を連れて、村へ帰ることになり、三人はバスに乗った。
坂の上でバスを下り、三人は、雪道を歩き始めた。歩きなれない雪道を、歩きなれない子どもを連れて、祖父は、はげましはげまし歩いたのだろう。
県道から村の道に入ると、見渡す限り、田んぼは、雪の原であった。
わたしと弟は、その白い世界を、どうやって歩いたのだろう。それは、生まれて初めて見る、美しい世界であった。
そして、祖父は、その翌年の夏に、亡くなっている。その時、わたしは七歳で、小学校二年生だった。
(「あとがき」より)
目次
- 縁側
- 存在
- 冬のあけがた
- 遠さ
- 帰り道
- 巡礼のような人の列に加わって
- 傘
- チョコレート
- そんな花を見たかった
- 石けり
- 夜の町
- 国境を越えて 見知らぬ国へ
- 雪あかり
- トタン屋根の家
- いまにも踊り出しそうに
- 黒牛
- 白い猿がやって来た朝
- ソファーのあたりがとても明るい
- ビスケットの缶
- ゆで卵
- 西洋料理店で
- 竹やぶの中の椿の木
- 祖母の家の外井戸で
- 竹やぶに灯がともった
- 火が燃え鍋の中の物が煮える
- 障子の戸
- 千代紙をちぎってはっていると
- 嵐の夜
- 同窓会名簿
- 手紙
- 岸
- 甘納豆
- 遠泳
あとがき