1973年2月、八海文庫から刊行された戸田正敏(1915~)の第2詩集。装画は菊岡久利、題字は緒方昇。
詩の中で、私はいつからか一匹の蝦蟇(がま)になろうと思っていた。たしか、密かにさぐり始めた魚沼の地に、出てくる獲物といったら、なにも黴くさく辛抱づよい涙ばかりか、さわさわと香りもよく、さながらよくできた干柿 漬物 濁酒のような正直や滑稽や優しい思いやり等がたくさんあって、一匹の蝦蟇にはすぎたる土壌であることが判ったからだ。そのうえ魚沼盆地は、雪にうもれて半年近くも冬眠ができるから、暢気者にとって格好な郷土であったのかも知れない。
しかし、そう言っても集録した四十三篇は、けっして欺くことを知らない大自然にとって、ささやかな一握りの落葉の堆積にすぎない。やがてそれは土にかえり、美しく分離瓦解される運命が待っている。空しいことである。けれど、この空しさの故に私の生きる悦びの世界もあったようだ。
おもえば四十年をこえて、たどたどしく貧しい詩をかき続けてきた。ずいぶんと疲れている筈なのに、私にはまだ書かなければならないものがいっぱいある。自然は今年も雪をもってきた。私はいま寒波の中にいて、それが却って内と外からの心ある熱風のように感じられる。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ雪国のいもうと
Ⅱ青大将
- おけらの唄
- 強情
- 雀の宿
- 秋野
- 戯画(一)
- 手相
- 青大将
- 梅雨どき
- 泥人形
- 案山子
- 虫干し
- 機織り嫁こ
- なめくじ
- 水盗人
- 野のほとけ
Ⅲ春の下駄
- 蛇
- おやばか
- 雪樋
- 戯画(二)
- 残庵通夜
- ナマクラの詩
- 船頭さん
- 白河の関
- 急停車
- 雑草の女
- 春の下駄
- 数え唄
- 牛の眼
- 青い林檎
愛と哀しみの風土 中島登
あとがき