この詩集は、ずいぶん前から計画していたもので、当初はもっとちがったものになるはずだった。というより、思いついてからしばらくのちに詩集にするほどの意欲を喪くしてしまった。それでいまごろ間の抜けた刊行にこぎつけたのだが、はじめは、一九六六年に、いずれは一冊の詩集を編むっちりで「わが瞳」の連作を書きはじめ、つぎに六八年から六九年にかけて、少し変わった体裁の一本を想定した「某々氏の全詩篇」と「角度を変えて」を書いた。つまり二冊の詩集を夢みていたのである。
とにかく、当時その気を起こさせてくれた川西健介氏と、その後、意を翻えしたこの飲んだくれに不純物無しの誘い水を注いでくれた八木忠栄氏の二人によって、この集は浮上した。ありがとうございます。
イメジに執着するためにだけではなく、そんな執着の発する器官を冷たく見すかしてやろうという魂胆が表題にこめられている。こうした関心がゆきつくところ、瞳から垂れる世迷い言のメカニズムを先取りしてやろうという冷たい熱情になる。集中、「点と線で語りたい」という一篇があるのに、後半で、「点と線でいまを描くな」と叫んでいるのも、けっこう身につまされているのである。その後だんだん、書いて考える、かたちを刻んでもら考えている、といったふうに進んでいったものだから、それらはもうひとつ別の本にしてみたい。
なお、こんな事情で、集中の九篇はすでに思潮社版「現代詩文庫」のなかに収めてある。
(「おぼえがき」より)
目次
わが瞳
- わが瞳
- 頭陀袋
- この発露はなにゆえに
- 夢破れ
- ハンドル握って
- 透きとほる相似の肉体
- 点と線で語りたい
- お祝い
- 水の仕組みを奪いとり
- 落ちた星
- 薔薇の耳であるおまえ貝殻であるおまえわたしであるおまえおまえではないおまえ
- 物体偏執鏡をめぐりて
- 光景にたちあう
- 夢のパンをつくること
- 世界をわがものにする
- 音は虚空に落ちず――一柳慧に
- あなたもヌケガラ
- たわむ都市
- クリストに贈る十九行
- 天地の間でしなってゆく言葉十九行
- 影追う者の昏迷よ――中平卓馬に贈る十九行
- 落下してゆく人間
朝のない夜の向こうへ
- unite史乃
- あげる杯に星ひとつ!
- ペガススの翼をもっという貝よ
- 朝のない夜の向こうへ
言語装置/角度を変えて
- 某々氏の全詩篇
- 筆記=岡田隆彦
- 媒体=右に同じ
- スポンギア・ソリス=太陽の海綿
- 部屋=カメラ・オブスキュラ
- 世におくる既成言語一束
言語装置/角度を変えて
- 催情部位の拡張
- 手錠のまま車で逃走
- 手錠のまま車で疾走
- かたちの復習
- 朝のあのこと――内容の細目
ひとり語る
- 羊水内仮死石蘇生
- 陽と肉体と影――ひとつの考え
- 涙なし
- 大股びらきに堪えてさまよえ
- 点と線でいまを描くな
- 帆船について考える
- ひとつの風
- 海から吹いてくる風が
- 青い風が吹いていたのに
- だから薄明の海なのか
- 眼のふたを閉じることはない
- なぜ夏はとどまる
- 孤独な通過者の夢はせつない
おぼえがき