1990年10月、書肆山田から刊行された岩佐なをの詩集。装幀は青山杳。装画は著者。
ろくに泳げない。軀が水に濡れるのはごめんだ。雨の日はできるだけ外出したくない、靴の爪先から水が入りこんできたりズボンの裾がじっとりするのが気持ち悪い。風呂やプールに対しても消極的で。ところが、水の在り処を見るのはとても好きだ。川岸や海辺、池のほとりでぼうっと時を過ごしていると、おちついて心が適度に潤ってくる。隅田川沿いのマンションの十階に知り合いが暮らしていて、そのベランダを借りることがある。霧雨煙る平日のひるまかぐわしき茶碗酒を手に、ベランダに置かれた木製の椅子に腰掛けて大川を往き来する達磨船や観光船をながめる。私の数少ないたのしみのひとつだ。河船にかがむ男衆が鵜に見える。水鳥が飛ぶ。
一冊に流れるテーマを意識して編んだわけではないが、今回の詩集は少し『水』っぽくでき上がっている。酒づくりなら落第だけれど、「水も滴るようなよい」作品……と云うこともできるし。(できないか、ちぇっ)
(「つぶや記」より)
目次
- 離宮の海月
- 漢籍の奥
- 猫や狐
- 泥鰌
- かわら係
- 小屋に寄らない散歩
- 酔語
- べとべと
- 開架式
- 先のこと
- 耳の事情
- 寒さの夏
- 春朝一刻
- 眠りの背景
- 少女写真
- 繭さがし
- お化け誘招機
- 夜想描写
- あいまいな私信
- 不眠や不眠
- 柿の枝にて
- みたままつり
- 夜の手紙
- さくら
- 川の蛇
- 海の扇子
つぶや記
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