1959年5月、五月書院から刊行された上林暁の随筆集。
随筆集を出すのは、「不断の花」(昭和十九年、地平社)以来である。
それ以後、時々に書いた随筆がおびただしく溜まっていたが、小説集でさえなかなか出せないのだから、随筆集なんか出す機会は来ないだろうとあきらめていた。随筆の切抜きは、切抜袋に入れられたりスクラップ・ブックに貼られたりして、空しく眠らされていた。そういう切抜原稿の埃を払って、選り分け、整理編集してくれたのが、五月書房の秋元君だった。そのおかげで、三百枚に余る随筆が一本に纏まって、日の目を見ることになったのである。
私は従来、自分の書くものは断簡零墨も大事にして来た。しかるに近来は、島崎藤村や志賀直哉のような文豪ならいざ知らず、自分如きが断簡零墨を大事にしたって始まらないと思うようになって、随筆なんかもぞんざいに書く傾きに向っていた。これは、折角随筆を書いても本に纏める当てがなかったせいのようである。その証拠には、今こうして随筆集を出す機会に恵まれてみると、従来断簡零墨でも大事に書いておいてよかったと思う。そして、今日以後も、やっぱり前の通り、断簡零墨も大事にしなければならぬと思うようになった。これが、随筆集を出すということから受けた刺戦である。
(「あとがき」より)
目次
・文
・本
・旅
- 南の正月
- 故郷の冬
- ふるさとの海
- 海村行
- 諸国名物
- 甲州御坂峠
- 相州下曾我の風色
- 木曾馬籠
- 京都の思い出
- 鎮西遠望
- 旅の絵葉書
- 山気
- 水郷の旅
- 美幌の老婆
- 旅行上手と旅行下手
・酒
- 一酒徒
- 二級酒
- 阿佐谷ヶ案内
- 酒わすれ
- 酒の卒業生は語る
- 酒解禁
- 文壇酒友録
あとがき