1961年、私家版として刊行された小泉萩子の詩集。
もしあなたが、興にのったらこの笛の音に耳を傾けて下さい。
もしあなたが、ほのかに心に感ずる所がありましたら便りを下さい。
そしてもしあなたが、話し相手を欲していたらお逢いしましょう。
いつの頃からか習い覚えた、言葉の音色。幾千幾万の言葉を並べ合せて、不思議な音色を生み出そうとするとの宿命。出来上った時の楽しみは、天にものぼる心地です。
でも時々、私はひどく疲れます。
与えられた尊い命を大切にしなくてはいけないと思いながらも、出来るなら、あまり長生きはしたくないような、そんな妙な気持になったりして困ります。だから、元気におゝらかに生きている人達に憧れ、うらやましくさえ思うのです。不思議なそんな人たちを、異邦人を見るようにまぶしく見とれます。
優しく、勇気を与えてくれる、理解ある人々に囲まれて、私はこの上もなく幸福者なのに、時折湧きおこる不可解な想いに惑わされて、発作的に苦しみます。これは、心の病いなのでしょうか。それとも都会を渡る風の中に、心を乱す汚濁の菌が浮遊しているとでもいうのでしょうか。すると笛は、冴えぬ音を発して、聞く者にも吹く私にも、不快な想いをおこさせるのです。
なおる見込みはあるのでしょうか。誰か良い薬をしっていたら、又良い笛直しをしていたら、教えて下さい。
笛の音がと絶えたその時こそ、この私が、地上から姿を消す時なのです。
(「あとがき」より)
目次
序
- 女の部屋
- 椿とももと春万作とが
- 恋の笛
- 緑の涙 紅い夢
- 三つの愛の唄
- 花四題 紫陽花・二十日大根・シクラメン・カンナ
- 夏の女
- 嵐
- 新春に想う
- 春の野
- 失われた午後
- 雨の日
- 水の唄
- 雲の唄
- 病
- 窓の話
- 夜の唄
- 夜の都会
- 街角
- 風の唄
- 故郷の唄
あとがき