1985年10月、深夜叢書社から刊行された佐岐えりぬの音楽詩集。装幀は末永隆生。
八つの小品から成るD・セヴラックの『休暇の日々より』は、一九八四年秋に催された第一回目の「ピアノとポエジーのタベ」の朗読のために書き下した。同一テーマの詩と曲が交互に織りなす或る種のハーモニーは、一つの試みとして成功であったようだ。
すでに題名のある曲に詩をつけることは、想像力の貧しい石頭の私にとって身の程知らずの愚行に等しい。どうしても曲の題名が頭にこびりついて純粋に曲からくる自由な発想がさまたげられ、音楽の波に乗ってうまく泳ぐことがむつかしい。特にE・サティは途方もない題名をつけて意地悪小父さんの特技を押しつけるので、ついひっかかってしまう。純粋に抽象的である音楽に対して、なんと言葉は具象的にイメージを規定する宿命を伺っていることか。
セヴラックの曲につけた詩はピアノの演奏と朗読が一体となる必要があったので、曲の題名に従い副題をつけた。サテイに関しても形式上、これに倣うことにした。
(「メモ」より)
目次
・D・セヴラック『休暇の日々より』 ロマンティックな八つの小曲集
- 1シューマンへの祈り――なつかしい方
- 2おばあさまが撫でてくれる――ショコラとボンボン
- 3小さなお隣さんがやってくる――子供たちは天使じゃない?
- 4教会のスイス人に扮装したトト――幼いトトが教会に行くと思うこと
- 5ミミは侯爵夫人に扮装する――小さな侯爵夫人
- 6公園でのロンド――リュクサンブール公園で
- 7古いオルゴールに聴えるもの Ⅰ――かえりたい
- 古いオルゴールに聴えるもの Ⅱ――時間を遡ると
- 8ロマンティックなワルツ――しろい夏
・エリック・サティ『ピアノ音楽全集より』
- 1自動記述――ひび割れた季節
- 2絵のような子供らしさ――坊やの一日
- 3最初の思想とバラ十字会の鐘――月に向う修道士たち
- 4梨の形をした三つの小曲――眠れない梨たち
- 5グノシェンヌ――幻の船
- 6星の息子――罪の星々
- 7官僚的なソナチネ――罠
- 8金の粉――或る奥方のおはなし
- 9胎児の干もの――空とぶ円盤
- 19心に触れる秘密の音楽――白い手袋