1976年9月、ほくと事業出版から刊行された鈴木達朗の詩集。
詩を書かなくなってから――正確に言うと、書けなくなってから二十余年になる。
その間、誠実に生きてきた積りだが、もともと底の浅い泉が涸れたのであろう、ただの一行も書けずに今日に到った。それに、人それぞれに定められた運命航路とでも言おうか、病児の養育に腐心する毎日が、十数年来続いて、きれいごとの詩作の余裕など、何処かへ吹飛んでしまった。そんな訳で、若い頃の作品など、現在の私には他人の寝言にもひとしいのだが、それでも時には、二十年前がまるで昨日であったかのような錯覚めいた感情が、ふっと起こったりする。もしかすると、そのような感情が、難破しかけた船を辛うじて支えてきたのかも知れない。そんな折には、また当時のような心の燃焼で何か書いてみたい、と考えたりするこの頃である。
(「あとがき」より)
目次
- 私は徐に昏倒する
- 文法
- 無題
- 仮面
- ある日の殺意
- H嬢への喪章
- 墓石
- L嬢の清涼剤
- 壁
- 孤独
- 影の殺人
- 奇形のガム
- 悖理
- カンヴァスの裏には
- 暦
- レモン
- 弔問客
- 無言歌
- 流刑地にて
あとがき