1972年4月、合同出版から刊行された「週刊アンポ」アンソロジー。装幀は片岡真太郎。
いろんな人がいろんなところで協力しあいながら、『週刊アンポ』を出した。一九六九年の十一月十七日に第一号が出て(そのまえに、資金カンパをひとつの目的として、ゼロ号を六九年六月に出した)、七〇年六月十五日に第十五号が出、それで終りというわけにふっうの雑誌ならなるところだが、この雑誌はそうではない。安保条約という理不尽で人間の原理に反するようなしろものをつぶすまで、この雑誌にあつまり、それをかたちづくった人びとの動きはつづいているので、終ったわけではない。それどころか、安保条約のみならずいろんなところにいろんなかたちで存在する「反人間」の事物にひとつひとつたちむかう姿勢が、この雑誌に集まった人びとのくらしのありようには見えて、まさに、それで事は始まる。そうとしか言いようがない。
『週刊アンポ』にはいろんな人が集まったが、そのいろんな人のなかには小説家も詩人もいて、小説家はそこで小説を書き、詩人は詩を書いたのだが、今、よみ返してみても、それぞれ面白い。いっちょう集めてみたらどんなものか――そこから話が始まって、この一冊ができ上った。小説家や詩人が状況のまっただなかで小説を書き、詩を書くということの意味が、実際の作品を通じてここにあらわれているような気がするのである。ここからも何か新しいものが始まれば、ここでも、それで事は始まるということになる。そうした期待と希望をこめて、この本をつくった。一九七二年四月十五日
(「この本のためのきわめて短いあとがき/小田実」より)
目次
- 近況報告 片桐ユズル
- 革命の化石 高橋和巳
- 一九六九年・ある日 秋山清
- クロスカウンター 小松左京
- わかりやすく 富岡多恵子
- 大将と侍たち 城山三郎
- きみが死ぬとき 小野十三郎
- マリファナ、LSDと自由 なだいなだ
- どこでもないところ 日野啓三
- 涙と怒りはベトナムのためにだけ 風間道太郎
- 解剖標本になった花嫁 寺山修司
- 革命の革命の革命 G・スナイダー
- 気がかり 黒井千次
- ゴルゴダの丘 長谷川修児
- 好きになるということはの日記 深沢七郎
- ギロギロギッちゃんの生活真情 鈴木志郎康
- 蓑虫は何によって生きるか 三浦浩樹
- 地下道 吉田欣一
- 小さな小さな家の話 加賀乙彦
- 人名簿ふうに―大阪のへんな飲み屋で 寺島珠雄
- 体驗 島尾敏雄
- 茉莉花の茶 大原富枝
- 橋 辻邦生
- 戦場にて 田辺義雄
- 眼 小田実
この本のためのきわめて短いあとがき 小田実