瞑鳥記 伊藤一彦歌集

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 1974年5月、雁工房から刊行された伊藤一彦(1943~)の第1歌集。装幀は桜武春。

 

 ことばのひとつひとつが時間性を負い、空間性を帯びている。したがって、ことばへの旅とは、ことばのもっている時間をあるいは瀕行し、空間をあるいは飛翔することに他ならないが、それはまたことばを通じての自己自身の内部への旅でもある。というのは、表現にあたって一つのことばを選択し、その選ばれたことばのさまざまの相の中から一つの相を選択するということは、自己の内部の徹底した検証なしには困難だからである。
 作歌をつづけてきたこの数年間、ぼくはそのような内部への旅を、形式と韻律を一方では抱きながら、試みようとしてきたのだった。それではぼくはどれほどの距離を旅しえたのか。その問いに対する答えは、作品を生みだすという行為によって自分の精神が本質においてどのように変化しあるいは変化してこなかったのか、という問いに対する答えと深く関わっている。そして、さらにまた内部への求心的な旅が同時にどれほど時代への遠心的な旅でありえたか、という問いに対するそれとも深く関わっていることだろう。
 ここに収めた作品は一九六五年より一九七二年までに制作したものを、ほぼ制作順に配列したものである。一九六六年春、ぼくは闘争の敗北まもないキャンパスを去り帰郷した。その帰郷した宮崎での作品がほとんどである。
 宮崎県の最南端に位し、それゆえ島津氏と伊東氏の争乱の地であった歴史をもつ串間市に今ぼくは生活を営むが、志布志湾に面する東南部の他は鬱蒼たる山林に包まれた連山のそばだつこの地に福島泰樹・三枝昂之と再会したのは一年半前である。そこでの宴がこの歌集を刊行させてくれた。想えばぼくはよき人々に恵まれた。福島泰樹、三枝昂之・浩樹兄弟の厚い友情、佐佐木幸綱、小中英之、浜田康敬、志垣澄幸の諸氏の暖かい激励、その他多くの人の支援がなければ、この歌集が生まれることもなかったであろう。本当にありがとう。
(「瞑鳥記覚書」より)

 

目次

・瞑鳥記 壱

  • 椅子のない風景
  • 聖なる沖へ
  • 鶴の首
  • 角笛のごときを
  • 船室
  • 麦の血
  • 生れては風の

・瞑鳥記 弐

  • 唄はあったのか
  • 韻律の森
  • 友情論
  • 塔の上
  • 冬の石

・瞑鳥記 参

  • 記憶
  • 桃が貴し
  • 木の唄
  • みどりご
  • 魔除の札
  • 目瞑る
  • 冬楼道

解説 福島泰樹
瞑鳥記覚書


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