雑草と時計と廃墟 山本博道詩集

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 2013年3月、思潮社から刊行された山本博道の詩集。

 

 千歳空港の到着ロビーを出て、高速バスの切符を買い、バス乗り場に向かう。バスを待つ間、ぼくは煙草を吸う。父と母の住む札幌の十階建てのマンションの一階にあるバスターミナルへ、そのノンストップバスは行く。道端には春と夏の草花がいっせいに風に揺れて咲いている。見馴れた乳製品や銘菓、蒲鉾の巨大な看板。そして、バスを降り、階段を降り、地下鉄に向かう手前で、地下道を右に折れ、ドアを三つ押し開けて、マンションのエレベーターホールに出る。この八階にぼくの両親は住んでいた。ふたり揃って生きていた頃も、父が死んだ日の夜も、父が死んで母ひとりになってからも、母を迎えに行った日の午後も、ぼくはそうして幾度となく千歳空港の到着ロビーを出て、高速バスの切符を買い、バスに乗った。それらすべての、短い夏と、震えあがった冬の景色を、ぼくは克明に描くことができる。家の間取りも、ひとつひとつの家具の位置も、家族で過ごした最後の正月も、夏の旅行も、何もかも、ぼくはいまでも、昨日のことのように思い出すことができる。アルツハイマー認知症の母を、わが家に連れて来て、五年目が過ぎようとしている。いまの母の毎日は、この詩集に載せたどの詩よりも、症状が進んでいる。
(「あとがきにかえて」より)

 
目次

  • 雑草*
  • 食べる
  • 母のこと*
  • 春*
  • 母の話*
  • 知床旅情
  • 陶芸と書道
  • 日はめぐる
  • 屑物入れ*
  • 雑草**
  • 時計*
  • 母といて*
  • 紙きれ
  • 母のこと**
  • 一瞬
  • 屑物入れ**
  • 母の話**
  • 時計**
  • 道のり
  • 母といて**
  • 春**
  • 廃墟

あとがきにかえて

 

書評等
詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

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