2016年8月、書肆山田から刊行された服部誕(はっとり・はじめ)の第3詩集。装幀は亜令。
冷徹なリアリズムと奇怪な幻想を携えて、作者は突然現れて、私たち詩仲間を驚かせた。サラリーマン生活者の苦い酒と家族の肖像が正しく刺繍されている一枚の大きな布。定年を過ぎて、作者の中の何者かが、深いいたわりをもって、丁寧にその人生の布を畳もうとしている。それはほとんど祈りに似た行為である。包まれた布から最終電車の悲鳴に似たベルが今なお聞こえて来る。出色の詩集と思う。
(「帯文/以倉紘平」より)
三十代で二冊の詩集を上梓してから、すでに二十五年が経ってしまいました。
オイルショックのときに入社し、バブル崩壊とともに四十代となったサラリーマンのわたしは、それ以来それまでより早いペースでいくつもの部署を経験することになりました。新しい業務を覚えることと責任を問われる年齢になったことで、日々の仕事は忙しさを否応なく増してゆきました。それからあっという間の二十年。四十代、五十代と、目の前に入れ替わり立ち現われる諸事雑事に振り回され、なんとかそれを捌きながら職場と自宅と安酒場とを往来しているうちに、詩作の意欲は仕事帰りの(あるいは呑みすぎた夜の)最終電車の網棚のうえに置き忘れ、(第一詩集で生意気にも名乗った)「日曜詩人」の肩書を筐底に匿したまま、二〇一一年に、やっとこさ定年を迎えることになりました。
二〇一二年になり「毎日が日曜日」生活がようやく体になじんできたころ、毎日文化センター(大阪)で開講されていた人気講座「以倉紘平の詩の読み方・詩の書き方」を受講しはじめて、それからは晴れて「毎日日曜詩人」にもどることができました。
爾来、四年余。せっせと書きためた詩のなかから、この第三詩集を編むこととしました。
これまでの詩集同様、多くのひとたちのあたたかい励ましとご助力により、この詩集は成りました。「詩の教室」の合評会での受講者諸氏の思いもよらない切り口からの指摘によって、推敲をくりかえす楽しさを再認識できました。いやはや、終わりのない推敲はやりだすとクセになるものです。
(「あとがき」より)
目次
- 暗い部屋
- 土曜の夜からまっさかさまに
- 牡牛と蜜柑
- すれちがった男
- 逆流する夢
- 繭
- つぎの駅まで
- 対角線上の鴉
- ウィンタープール小景
- 六歳としをとった
- キュウリとソバのアレルギー
- 阪神電車から見えるちいさな家の裏側
- 車中の蝶
- 二十年後の自画像
- 改札を抜けて
- わたしたちは待っている
- 鳥が笑った日
- ハンコをあつめる
- バスの走る街
- 三番目の居場所
- 会社を休んだ日
- 買い物日和の日曜日
- おおきな一枚の布
あとがき