1983年12月、編集工房ノアから刊行された森本敏子(1930~)の第4詩集。装幀は粟津謙太郎。
今年の五月詩誌「灌木」を主宰しておられた喜志邦三先生が永眠されました。「灌木」は昭和二十八年「再現」の名で創刊され、二十八号より「灌木」と改称されて以来三十年間月刊を維持しつづけて、喜志先生逝去の月には三百五十四号に達していました。
私は創刊号より参加させていただいて今日に至ったのですが、先生の詩に対するきびしさと愛にこたえられないままお別れしてしまったので心痛むばかりです。
「灌木」は第二次として続刊されることになりましたが、未知の場に出てゆくのも、今、私にあたえられたひとつの試練ではないかと考え「灌木」を退きました。
そして「灌木」に発表した前詩集以後の詩篇より選んで詩集を編むことに致しました。
誰にとっても日常は他愛なく同時に重いものですが、重さを抱えながらなお日常をほんのわずかでも超えてゆきたいと願う心がこれらの詩篇を生みました。このささやかな詩集を謹んで喜志邦三先生に捧げたいと思います。もっと早く出来上る予定でしたが、姑の骨折入院、退院後のリハビリ、在宅看護の甲斐なく他界し、一両日おいて娘が出産、ついに体調をくずすというおまけまでついて、おくれてしまいました。
ほとんど同時に起こった死と生のドラマに身近くかかわり、燒大な世界を一瞬垣間見たような気も致しました。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 水になる
- わたしは水
- 水の手
- 行ってしまった水
- 水が帰る
- 沈みのとき
- 白い闇
- 眩暈
Ⅱ
- 草刈り
- 草ひき
- 土を起こす
- にんじん
- 春という
- 蚕 覚え書き
Ⅲ
- 手を振る
- 浮いている
- 洗う
- 椀をふせる
- 蹲る
- 鋏
- 明石から
Ⅳ
- 讃歌
- きり絵
- 飛んでゆく右腕
- 杭がゆれる
- 世界の秋
- 手紙
- とどかない石
- 初めての歌
あとがき