1970年8月、潮流出版社から刊行された芝憲子(1946~)の第1詩集。写真は中島すみ江、装画はいなだ三郎、装幀は中島忠男。
これは私のはじめての詩集で、一九六六年頃からの作品が入っている。これらの作品を書く数年前には、私は今頃は波乱万丈の人生を送っており、熱烈な大恋愛を何度かして、もちろん日本には住んでいず、世界各国を放浪しているような気がしていた。また、一九七〇年には日本が大荒れに荒れ、各地で人々の叫びが日夜轟き、私もその一角で未来を見つめて輝しい顔をしているように予想していた。ところが実際にはそうはならずに、表面的には相変らずだらだらと平凡な日々が過ぎて行く。毎日腹の立つニュースばかりがあり、たいがいの人はつまらなそうに働いている。そしてこうなることは何だか自分でも前からわかっていたような気がするのだ。そう思うと、情ないような、憎らしいような、愉快なような、複雑な気持がこみ上げて来て、詩を書きたくなる。詩を書いたからってどうなるものでもないが、エーイと思って書く。
電車の中などで、疲れきった様子の女の人や中年の男の人を見ると、たまらなくなって声をかけたくなるが、そうすると結局そこに居るほとんど全部の人に声をかけなければならないだろうと思って唖然とする。それこそ幽霊にでもなってふらついていれば楽だろう。幽霊の有無については様々な説があるらしいが、いると考え、自分もなれると考えた方が楽しい。ただし、生きていればひょっとしてもっと面白いことがあるかも知れず、その時幽霊みたいに立っているだけというのもいやだ。ヨーロッパ風の、鎖を引きずった幽霊などになったら目もあてられない。未練がましい幽霊になるのは当分やめて、あくせくくよくよと暮らしながらも詩だけはずばりと書きたい。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 東京の幽霊1
- 東京の幽霊2
- 東京の幽霊3
- 東京の幽霊4
- 東京の幽霊5
- 東京の幽霊6
Ⅱ
- かくれみのをつけて
- 思いがけないありのまま
- 吉祥天女
- 女のとし
- 死
- 劇
- わが兄は
Ⅲ
- 恐怖症
- チョコレート世代
- 種まき
- 花火屋
- 街の中の人
- 島
- 西部暦いっせんきゅうひゃく七〇年
Ⅳ
- 防空壕
- ピストル
- 機動隊員にも妻ありき
- 毒ガスと兎
Ⅴ
- 街
- 展覧会の絵
- 実のならないトマトの香りが
解説 村田正夫
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