1993年7月、岩波書店から刊行された伊良子清白(1877~1946)の詩集。ワイド版岩波文庫106。底本は1938年版。
阿古屋の珠は年古りて其うるみいよいよ深くその色ますます美(うる)はしといへり。わがった詞拙く節(ふし)おどろおどろしく、十年(とゝせ)経て光失せ、二十年(はたとせ)すぎて香(にほひ)去り、今はたその姿大方散りぼひたり。昔上田秋成は年頃いたづきける書(ふみ)深き井の底に沈めてかへり見ず、われはそれだに得せず。ことし六十(むそ)あまり二つの老を重ねて白髪(しらが)かき垂り齒脱けおち見るかげなし。ただ若き日の思出のみぞ花やげる。あはれ、うつろなる此ふみ、いまの世に見給はん人ありやなしや。
ひるの月み室にかゝり
淡々し白き紙片(かみびら)
うつろなる影のかなしき
おぼつかなわが古きうた
あらた代の光にけたれ
かげろふのせなんとする
(「岩波文庫本のはしに」より)
目次
- 漂白
- 淡路にて
- 秋和の里
- 旅行く人に
- 島
- 海の聲
- 夏日孔雀賦
- 花賣
- 月光日光
- 華燭賦
- 五月野
- 花柑子
- 不開の間
- 安乘の稚兒
- 鬼の語
- 戲れに
- 初陣
- 駿馬問答
解說 中山省三郎
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