2012年1月、思潮社から刊行された瀬崎祐(1947~)の第5詩集。カバー写真は、高吉麟太郎。
前詩集を出してから四年あまりが過ぎた。その間、伝達手段とは異なる言葉を用いて嘘の世界を構築しようとしてきた。現実世界に対峙しうるもうひとつの世界の構築を夢想してきた。しかし、言葉がどこまでも言葉である以上は、言葉はなにかしらの切羽詰まったものを必要とした。それは言葉を発する者を危うくするものでもあったが、言葉がそれを身にまとわないかぎりは本当の嘘はつけないのだった。やはり言葉は肉体から出発して、ふたたび肉体へ還っていくのだった。そんなわけで、この詩集に収められた言葉は、そして作品は、肉体からの湿り気を帯びている。
小雨が降り始めたあぜ道では、ほてった身体が心地よく濡れていく。
前方を、黄色と薄赤色のレインコートを着た二人の幼子が母親に連れられて歩んでいる。
黄色いレインコートの子がしゃがみ込んでなにやら遊び始める。
雨が激しくなる前に早く帰ろうと、母親が幼子たちを促している。
そうか、君たちは濡れない場所へ帰っていくのか。いいな。
でも、わたしは濡れながらもう少し先まで行くことにする。
(「あとがき」より)
目次
- 蛇娘
- 夜闇
- 祝祭
- 窓都市
- 逃げ水ホテルで
- 残貌
- 冷たい手のままで
- 忘備録 SIDEA・迂回
- 忘備録 SIDEB・秘匿
- 市場にて
- 骨切り屋の女
- 水鏡についての断片
- 家族のいる時間
- 五月雨
- 波紋
- 情事
- 指のかたち
- 抜け殻の乾き
- 砂丘にて
- 湧水
- 曇天
- 声の在りか
あとがき